第5話

「待てえっ!」

 老人の叫びが遠く背後で聞こえ、彼は走り続けた。遥か遠くの小さな光に向かって、駆けた。

 光は近づくにしたがって、少しずつその輝きを増し続けた。暖かく彼を包み込んでくれる、優しい輝き。

 いつの間にか、辺り一面に仲間がいた。皆が光に向かって進んでいるのだ。闇の中では、どんなに探しても見つからなかった仲間が、今、ここにいる。

「無事だったのか、みんな」

 彼は喜びを感じる。仲間たちが答える。

「ああ、君も。良かった。やっと、会えたね。ずっと、捜していたんだ」

「俺もそうだ。別れ別れになってしまって、ずっと一人で・・・」

「私もよ」

 と、誰かが答えた。

「何も見えないし、心細かった。寂しかったわ。でも、もう大丈夫ね。光があるもの」

 そうだ。光だ。もう大丈夫。闇は去り、光が我々を守ってくれるだろう。

 彼は仲間たちとともに進んだ。明るい。闇に慣れていた眼には、あまりにも眩しすぎる。希望の光。待ち焦がれた輝き。それはもう眼前に迫っていた。彼も、仲間たちも、喜び勇んで、その光に飛び込もうとした。その時、

「待て!」

 誰かが、彼の腕をつかんだ。凄まじい力で彼を闇の方へ引き戻した。振り返らなくてもわかった。あの、老人だ。

「放せ! 何をする!」

 彼はその腕を振り払おうとする。老人は執拗にその力に抵抗した。か細い体の老人の、何処からそんな力が出てくるのだろう。執念にも似た力で・・・。

「落ち着け。落ち着いて、よく見ろ! お前の仲間たちがどうなるのかを・・・」

 彼は見た。白い光の中に飛び込んでいく仲間たちの姿を。光の中で、彼らが舞い踊りながら、消えていくのを・・・。

「・・・食われてしまったのじゃよ」

 静かな声で、老人が言った。体を震わせながら。

「あの光は希望ではない。絶望だ。あいつに皆、殺されて、食われたのだ」

 深い哀しみが、老人の瞳からこぼれ落ちた。若者はそれに気づいたが、彼は別のことを考えていた。

 仲間たちは、光に食われてしまったのだろうか。本当に?

 彼は、仲間たちが幸せに満ちた表情で消えてゆくのを見た。どの顔にも苦痛はなく、喜びがあふれていた。だとしたら・・・。

 だとしたら、あれは入り口だ。光の世界に通じる入り口なのだ。仲間たちは殺されたのではない。食われたのでもない。旅立ったのだ。新たなる世界に向けて――

 彼は老人を突き飛ばした。

「わかったぞ! あんたはあそこへ行くことができなかった! その勇気がなかったんだ! だから、いつまでもそんな闇の中にいるんだ!」

 彼はもう迷わなかった。老人の方を振り返りもしない。背後で「行くな!」と叫ぶ老人の声が微かに聞こえてきたが、彼は無視した。

 彼は、光の海の中を泳ぐようにして進んでいった。光、光、光、光、光。一面まばゆい光に満ちた空間で、彼は狂喜していた。

――光だ!

 彼は、満足だった。

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