第3話

「わしはもう何度も、この闇の時代を迎え、過ごし、くぐり抜けてきた・・・」

 老人は言った。

「長い・・・長い闇だ・・・絶望の時間だ。誰もが過去の光を思い、懐かしみ、未来の闇に夢を失う。悲しい時間だ」

 その声はすでに彼に語りかけるものではなく、老人は、独り、続けた。

「絶望した同胞が何人も何人も死んでいった。わしはそれを見てきたのだ」

 老人は彼の腕をとった。

「いいか。光は必ず来るのだ。絶望することはない。諦めることはない。確かに闇の時代は長いが、決して永久のものではないのだ。光は再び現れる・・・」

 彼はその手を振り払った。

「あんたの言っていることは、わからない」

 彼は言った。

「俺にわかるのは、今、この瞬間に光がないってことだけだ。そうだ。ここには光がない。闇ばかりだ。教えてくれ。あんたがこの世界のことを何でも知っているのなら・・・。何処に行けばいい? 何処に行けば光が手に入るんだ!?」

「手に入れることなどできぬ。再び光が巡るのを、待つしかないのだよ」

「光が巡る。それはいつだ? いつになったら、この闇から解放されるんだ!?」

 彼は叫んだ。老人に向かって・・・老人がいるはずの闇に向かって両腕を伸ばしだ。その腕は老人の肩をつかみ、激しく揺さぶった。

「俺は、この闇から解放されたい! 出たいんだ! ここから! 光が欲しいんだよ・・・頼む・・・教えてくれ・・・どうしたらいいんだ・・・どうすれば・・・」

 腕の力はすぐに緩み、声は震えていた。彼がどんなに光を欲しているか・・・老人には痛いほどよくわかった。しかし・・・

「俺には・・・あんたの顔も見えないんだ・・・」

 どうすることも出来なかった。老人は悲しそうに答えた。

「・・・待つしかないのだよ・・・」

 闇の時代は始まったばかり・・・彼はそれを知らなかった。闇はますます濃くなり、彼の不安は増していった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る