ぎゅぎゅっと! [1]⇨[1]
入ってすぐ目に飛び込んできたのは、物販コーナーだった。
「え、いきなりグッズとか置いてんの? こうゆうのって出口にあるんじゃないの」
思わず声に出して言ってしまったが、普通そうじゃないか?
入り口でいきなりいる生物のぬいぐるみとかおかれてたらネタバレもいいとこだ。
珍しい生き物とか知らない生き物とか、初めて見るからいいんじゃないか。
君はぽそりと「確かに、なんでこんな場所に...」と言う。
スタートから肩透かしを食らったが、進む先にはエスカレーターがあり、いよいよ動物たちとのご対面だった。
エスカレートを上り、少し行くと天井が突然高くなり、周りが山の中のような空間に変わった。
木が生えていて、水の流れる音がする。
人の集まっているところに行ってみる。
「...何これ?」
正直何も見えなかった。
人が邪魔で、というのもあるが、ぱっと見でも目につくサイズの動物ではないことはわかった。
しかし「んー」と背伸びをしたりキョロキョロしていると人と人との隙間から君は何かを発見したらしく、すぐに僕に伝えてきた。
「あそこ、木の上、なんかいる」
指を差す方に目を向けるも、あれが果たして君が言っているものなのか、それとも木なのか、僕にはわからなかった。実は僕は目が悪い。学校の黒板は三列目までじゃないと見えないレベルで悪い。
だから僕が「ん? んー」と唸りながらあれがお目当てのものなのか否かを確かめるべく必死に見ている中、君はずっと「あれ! あれ! いるじゃん! 寝てる!」と懸命に説明してくれたが、そもそもどんな動物かもわからないのに寝てるとかあれとか言われてもわかりっこなかった。
しかし神の一手ともいえるセリフが、僕らの耳に届いた。
「おーカワウソかー、寝てて顔が見えんなぁ」
神いいいいいいいいい、おじいちゃんありがとう!
カワウソね、はいはい。
あの哺乳類でラッコの親戚みたいな茶色っぽい天然記念物のあれね?
「そう! カワウソ! あれ!」
いや君名前わかってなかったのかよ。
完全に理解した上で今度こそカワウソを見るべく目を向ける。
んー、やっぱあれ木だわ。
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順路通りに進むと、次は上と左右が水槽張りでアーチ状になってる綺麗な水路だった。
エイやコブのある魚など、名前は分からなくとも既視感のある魚たちがゆらゆらと優雅に遊泳していた。
パシャリ、パシャリと数回写真を撮る君。
「携帯変えたから、たくさん写真撮る」
そう言って画質の高い写真を僕に見せてきた。
肉眼とまではいかないが、そこには確かに肉眼と同じくらいの綺麗さに迫る、華麗な魚たちが写っていた。
「おお、いいじゃん、撮れとれ」
そのままどちらからともなく足を進め、別の水槽に移動する。
その水族館では世界の地域ごとに水槽が分けられており、亜熱帯地方の魚も居れば、バリアリーフなどの地域の水槽もあった。
先ほどまではわりと歩くのが早い方だった君が、水族館に入るとのんびり歩いていて、なんだか少し安心感を抱いていた。その気持ちの正体はわからない。
おそらく水族館の構造は真ん中に大サイズの水槽、ジンベエザメやイワシの大群、エイなどが一緒に入っている水槽があり、それを中心として他の水槽が周りにいくつかある、いったものだった。
水槽はなかなかの高さがあり、螺旋状に上から大サイズの水槽を中心に降りていく構造になっていた。
ただ、螺旋状に降りていく最中も、高さによっている魚が違ったり、先ほどまで遠くにいた魚がこちらに来たりと、飽きることなく楽しめた。
螺旋ゾーンが終わりいよいよ終盤かと思った頃、ちょうど正規ルートとは外れた場所に何やら別のブースがあった。
名前は
「ぎゅぎゅっとキュート...?」
よくわからないイベント名に思わず困惑する。
ネーミングセンスが終わってないか? なにぎゅぎゅっとって。次世代のプリキュアになってそうだな。ぎゅぎゅっとプリキュアっ! とか。
「行こーよ」
訝しげな目で見ていた僕を尻目に君はブース内に入ろうと足を向けていた。
この名前に違和感がないとはなかなかの感性を持っているのかただ単に無頓着なのか。
まぁ普通の人は何も思いませんよね、うん、僕がおかしいだけでしたてへぺろ。
君の後ろについて行き、ブース内に入ると、先ほどとは違って大きい水槽ではなく小さい水槽がいくつか並べてあり、小さい中でも大小や形が様々だった。
ドーム型の水槽にはイソギンチャクや小さくてカラフルな魚たちがたくさんいた。
「あ、これニモのやつ、名前は、なんだっけ」
ディズニーのファインディング・ニモに出てくる青い方。
「え、わかんない。こっちはカクレクマノミだよね?」
君も名前を知らなかったようで、オレンジのカクレクマノミだけは、両者見事正解したのであった。
ちなみに青い方は作中での名前はドリーで、元となった魚の名前はナンヨウハギだそう。
いやわからんだろ。全然パッとした名前じゃないし。ナンヨウハギファンの皆さんごめんなさい。
同じブース内には、他にもたくさんの魚たちや海の生物がいた。
「オォ、これがかの有名なチンアナゴ」
にょろにょろと砂から体を出してゆらゆら揺れているチンアナゴさん。
ちょうど水槽の前にチンアナゴに興味津々な外国人観光客がいて、君が少し写真を撮るのに苦戦していた。
そんなに撮りたいですか、チンアナゴ。
他にもやる気がないのか体調が悪いのか、なんだかうなだれているタツノオトシゴや膨らまないハリセンボンなど、フワッとしたまま全てを回り終えた。
最後までどの辺がぎゅぎゅっとなのかはわからなかった。
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