第7話 女神様がぬぎぬぎする件について、そしてオプションは1000円から交渉が始まる出会いにまつわる件について
何でも三つの願い事を叶えるための法則をそれぞれ提供してくれるという女神様がいると聞き、
男は神域へとやってきた。
男は女神に向かって叫ぶ「俺の夢を叶えてほしい」
女神は応える「夢の達成難易度によって方法は変わります。具体的におっしゃってください」
男は「とにかくてっとり早く形にしたい。夢を叶えたい」
女神は方法論を紙と筆に記し、男に手渡した。
「俺の求めていたものはこれだ!」
喜びに我を忘れ、神域を出て行った。
数か月後。
男は再び神域へとやってきた。
女神はすまし顔で男を迎える、男の顔はくやしさで歪んでいた。
「夢の選択を誤りましたか」
「いや、夢は叶った。手っ取り早くな。しかし、簡単な手法なので他の者に見抜かれ、皆が真似をして、ありふれたものになった」
「そうですか」
「そうですか、じゃない。もう夢はいいから金をくれ。金を手っ取り早く稼げる手段ならなんでもいい。教えてくれ」
「難易度は」
「手っ取り早いっつったろ!」
女神は紙と筆を使い、筆の動きに迷いはなかった。男は女神からレシピをひったくると礼も言わずに神域から出て行った。
数年後、三度男は神域に脚を踏み入れた。
女神の感情は一定で無感情ではないが他に感情を知らないような風であった。
男は焦っている。
「お前の言うとおりにしたんだぞ・・・」
「お金は稼げませんでしたか」
「金はある・・・が、使えない金になった」
女神の法則にはマネタイズの方法が書いてあり、
それは『何も知らない人間に救いの手を差し伸べよ』の一文から始まる。
『知識を与え、技術を与え、自分の手にある価値あるものと引き換えにお金をいただく、ただし、その中身は問わないが相手が喜びの大きさに応じ金は集まるだろう』
『喜びの期間:小、中、長』
「俺は小を選んだ」
「さようでございますか」
「ふざけるな。お前は俺を陥れたんだ」
喜びの期間:小には瀕死の人間や病気の人間を治癒する薬のレシピが記載してあった。それは実際には新種の麻薬で一時的に気分が上がり痛みは忘れるが最終的には死ぬのである。実態は伏せられたまま、一時的な(1年)効果が持続する間、人々の話題を呼び集め、男は薬の権利を独占した。富が手に入り、その後投薬対象は死んだ。
女神は男の手に短刀が握られていることに気付いた。しかし、彼女は一つの感情しか持たないようである。
「お金はあなたの元に集まりました」
「まるで詐欺にはめられたようだ。とんでもないことを教えておきながら、平然としてやがる。お前のせいで大勢の人が死んだんだぞ」
「お金を集める手段を教えたまでです。他にもいくつか手段を記載しておりましたが」
男は苛立ちに声が震えている。
死体の数は男にすらわからない、しかし方法を示した女神は蓮の上でくつろぎ眠るような穏やかさを保ったままだ。世の中のいかなるものも彼女の中から別の感情を引きだすことはできない!
「そんなものを試せるわけないだろ! 殺人罪で国中から追われる身! だからここに来たんだ。まだ一つ残ってるだろう。願いを叶える法則をもらえる権利」
「どのような願いをご所望・・・」
「逃げる方法だ!!」
女神は紙と筆を取り出すと何かを数分で書き上げると、男は紙を奪い、短刀を女神の喉元にあてがった。
「お前のせいでこうなったんだ」
すぐに、周囲から人々の怨嗟のざわめきが起こった。
男を追いかけてきていた人々が神域にまで押し寄せたのである。
男は女神が呼び寄せたもので、それは神の怒りのなせる業だと思い知った。
男は神域から消えた。そして女神の元には戻らなかった。
女神は神域の深くに足を進めた。半刻ほど歩いた先に、町があった。
川沿いに木造の小屋が密集し、そこには人の賑わいがあった。
女神は小屋に入り、衣を脱ぎ、町人の衣装に着替えて甘味処に訪れた。
町には『葬儀屋』、『病院』、『異国から集めた情報を売る』、『税金を集める役人』、そしてそれらは『宗教団体』の名のもとに総括され、
町は活気に満ちていた。
「お金を稼ぐには仕事を、『他人にやらせればいい』」
「葬儀屋さんが大忙しだってね」
「ここ数年で税金もたっぷり集まったようで」
「『ここだけの情報』には価値があるのよ」
「救ってあげたの、あの人たちのやることを決める権利はないわ」
「この間の女も酷かった」
「あの男は逃げたわ。逃げる方法なんていくらでもあるもん。どこに逃げるとは聞いてないけど」
町の喧騒の中で数々の言葉が浮かんでは消える。
女神の声はそれらの中に交じり溶け込んでゆく。
神域は人々に恐れられ崇められその存在を知るものはこの国には少ない。
了。
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