第5話 顔ぶれ

 血を顔に塗りたくる事で、他人の顔をして生きることができる魔法使いがいた。

 顔を変えただけでなく、成り済ました人間の周囲の反応を受けて初めて変化を感じられる。下手なドラマよりも生々しく、己の振る舞い一つで、小説の主人公になって物語にはいりこんだような体験が味わえる。

 この間は医者を殺して治療を続けた。

 pcにあるカルテを見ながら適当に。

 手術の必要のない患者に死を宣告したときの表情がわすれられない。信用を踏みにじる瞬間、お互いのなにかが壊れていく。



 この遊戯のために何人殺したのか数えてたことはないが、ついに最後を迎えた。


 鏡には皮膚が突っ張り、ある部分はねじれ鼻がつぶれて

眼球がむき出しに。片目は皮膚が極端に下がり瞳は見えない。

 口は左右対称に歪んでいる。


 誰の目にも醜く映るであろうこの世に二つとない顔を得た魔法使いは未踏の人生を踏み出すことに心を踊らせる。

 この顔が寄せる人の感情は読める。



 他人の評価が人生を決定付ける国で

 周囲の人間は彼を何処へつれていくのだろう。


 体感したことのない黒い感情は

 今、頭の中で紡ぎ得ない未来を創る。

 魔法使いは恍惚の中で可能性を噛み締める。



 





 

 

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