オアシス
家へ着いたキラはタカの用意した遅い昼食を済ませると、旅について語り始めた。キャラバン隊と渡った美しい砂漠、ウルの街での苦労、レグルやマリタとの出会い、ハーナブでの戦闘……。マナナとタカはそれらのどの話も真剣に聞き入った。話が終わる頃には日はすっかり落ちて、外は暗くなっていた。
「そんなに沢山の経験をしたなんて驚いたわ」
マナナは目を輝かせて聞いていたが、話が終わると涙ぐんだ。
「とにかく、無事に帰って来てくれて良かったわ……レグルさんにも改めてお礼を言いなさい」
「ええ。そのつもりよ。今からオアシスに行ってくるわ」
キラはそう言って席を立つと、表へ出ていった。
オアシスは夜の空を映して暗く静まっていた。その中心に、レグルが浮かんでいるのが見える。その様子はまるでオアシスに島が出来た様だった。
「レグル~!」
キラは思い切り叫んでレグルを呼んだ。レグルは滑るように水面を泳ぐと、キラの元へとやって来た。
「母さん達と過ごさないのか?」
「ええ。それは何時でも出来るわ……それより、レグルにお礼を言いたいのよ。色々と有り難う」
「フフフ、まあ俺は大した事はしてないぞ」
「それと……」
「何だ?」
「何故あの砂漠で私を助けてくれたの?」
「そうだな……ドラゴンていうのは、美しいものが好きなのさ」
「美しい?」
意外な答えにキラは首をかしげた。
「でも、美しい人っていうのは、ペルタ王妃とか、マジェンタ王女みたいな人の事を言うんじゃないの? 授与式で見たけど、まるでこの世の人じゃ無いみたいに綺麗だったわ」
「フン……見た目が美しい人間というのは、結構いるものさ。それこそ、都会で磨きあげれば大抵の人間はそれなりに美しくなるものだ。だが俺が言っているのは心の美しささ。今日日、心が美しい奴の数は減る一方だからな。俺はあの砂漠で、母さんを思うお前の一途な気持ちに美しさを見いだしたのさ」
そう答えたレグルは少し恥ずかしそうだった。
「それを理解できるレグルの心も美しいと思うわよ。それに、私のために泣いたし」
「それは秘密にしておいてくれないか?」
「あら、どうして?」
「また『ドラゴンの涙が欲しい』とかいう輩に付きまとわれちゃ敵わん」
「プッ、ウフフ。分かったわ」
キラとレグルは大声で笑った。笑い声は鏡の様な湖面を渡り、消えていった。
「よし、俺はそろそろ砂漠に戻るよ。もしまた俺に会いたくなったら……」
「マリタさんから通信機をもらったわ」
キラは首に下げた青い巻き貝を見せた。
「うん。そいつで呼んでくれ。それじゃあまたいつか!」
レグルはそう叫ぶとバサリと翼をはためかせて飛び立った。キラはレグルの姿が消えるまで、彼の飛行を見つめていた。レグルが消えた先の星空には、例のドラゴン座が輝いていた。
キラとレグル 夢咲香織(ユメサキカオリ) @kotsulis
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