帰還
「聞きたい事って何かしら?」
マリタは改めてキラの向かいに座ると、紅茶を一口含んだ。
「はい。私は母さんの病気を治すためのお金が欲しくて、それでハーナブで戦いに参加して報償金を得ました。結果は上手くいったけど……でもそのために沢山人を殺めてしまったわ。それが本当に良かった事なのか分からなくて」
マリタはじっとキラの目を見つめると、やがて口を開いた。
「そうね……大事な事は、願いが叶ったのならそれについてあれこれ後悔したりしない事よ。確かに人を殺める事はいけないことだわ。でも、今回は相手は王国の敵として現れたのだし、戦果を上げた事で貴方の願いを叶えるためのお金が手に入ったのでしょう? 貴方が戦った事で救われた人もいる筈だわ。なら、それを素直に喜ぶ事よ。人間の心にとって一番悪いのは、やってしまった事にいつまでも取り付かれて悔やむ事よ」
「そうですか……」
「そうよ」
「分かりました。そう言ってもらえて、気が楽になったわ」
「ウフフ。お母さんの病気、良くなると良いわね」
「ええ。有り難うございました。じゃあ、これで失礼します」
「いつも前を向いて行きなさい」
「はい」
キラはマリタに軽く会釈すると、外へ出た。
「行くか?」
レグルが待ちわびた様子で訊く。
「そうね。帰りましょうか!」
キラを乗せたレグルは、マリタが見送る中大空へ舞い上がった。森を抜け、草原を抜け、砂漠の上を延々飛んで、とうとうキラ達はカラルの村に到着した。既に日が傾きかけていた。村外れにもうもうと砂煙を上げて舞い降りたレグルを見た数人の村人は、まず腰を抜かして呆然とドラゴンを見つめ、その背中にキラが乗っているのを確認すると大急ぎで村長の家へと走り込んだ。あれよあれよという間に、村長を始め大勢の村人達が集まって来るのを、キラは懐かしさと共に微笑ましく見ていた。
「やれやれ、ドラゴンに乗ってご帰還とは恐れ入ったわい!」
鞍から降りたキラを村長が抱き締める。
「こちらはレグルよ。レグル、村長のハリルさんよ」
「どうもレグル殿。ワシらドラゴンに会うのは初めてで、どうして良いものやら良く分からんが、まずはキラを無事に届けてくれた事、礼を申します。どうやらうちのキラが世話になった様ですね。」
村長はレグルの前に歩み出て一礼した。その言葉も終わらないうちに、
「キラ!」
ダンとナジャがキラに飛び付く。
「これ。まずは挨拶じゃ。後にしなさい」
村長が二人をたしなめた。
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