貝殻
「良いのか?」
キラを見たレグルは訊いた。
「ええ。帰りましょう」
「レグル殿、キラ殿。此度は有り難うございました」
司令官のテオがやって来て礼を述べた。
「何、街の皆が無事で良かったさ」
「私も、少しでも皆さんの役に立てて良かったわ」
キラがテオに微笑む。
「タリルの剣ですが、どうせキラ殿しか抜けないのですから、そのままお持ち下さい。そして、また王国に危機が訪れた時には力を貸して下さると有難い」
「ええ。そのつもりよ」
「では、道中ご無事で」
キラは差し出されたテオの手を握ると鞍へよじ登った。
「では、去らばだ!」
レグルは一声上げると、空高く舞い上がった。あっという間に城が遠ざかる。レグルは一度城の周りを旋回すると、ハーナブの街を後にした。
「さて、カラルへ向かうか」
「いいえ、その前にマリタさんの所へ寄ってちょうだい。お礼がしたいの」
「分かった。ではシロルの森へ向かうぞ」
レグルは大きく羽ばたいて、森を目指した。
森へ着いたレグルは来た時と同じ様に、池の上を舐めるように飛んで小屋の脇へ着地した。
「お帰りなさい」
呼ばれるまでもなくマリタは入り口に顔を出して、二人を出迎える。
「その様子だと、良い事が有った様ね」
マリタは静かに微笑んだ。
「ハーナブでジルーダ相手に戦が有ってな。キラがタリルの剣で活躍したのさ」
「まあ! タリルの剣を抜いたのね」
「フフフ、そうだとも。それで、キラはお前に礼がしたいそうだ」
「あらまあ。取り敢えず、上がってちょうだい」
マリタに促されてキラは小屋へ入った。
「タリルの剣を抜いたなんて、さすがはレグルの友達だわ!」
マリタは感激した様子で紅茶を入れた。
「ええ、まあ……抜いてみたら抜けたので」
キラはちょっと照れながらソファーに腰かける。
「それで、マリタさんにお礼がしたいんです」
「あら、私は何もしていないわよ」
マリタはフフフ、と笑った。
「いいえ、マリタさんにもらった魔法の服と、傷薬がとても役に立ちました。そのお返しに、これを受け取って下さい」
キラは麻袋から金貨を三枚取り出してマリタに渡す。
「まあ、ありがとう。でも、こんなにもらう程の事ではないわ」
「どうか受け取って下さい。その方が私の気が済みます」
金貨を返そうとするマリタの手を、キラは押し戻した。
「……分かったわ。でも、これではお釣りが必要だわ……そうだわ。ちょっと待ってね」
マリタはキャビネットを開けると、中を物色し始めた。
「これを持っていきなさい」
取り出されたのは青い巻き貝に紐を通したペンダントだった。
「綺麗ね」
砂漠育ちで貝殻など見た事の無いキラはため息を付く。
「これはね、通信機なのよ」
「通信機?」
「レグルに会いたくなった時に、この貝殻の穴に向かって語りかけるの。そうすれば、どんなに遠く離れていてもレグルに聞こえるわ」
マリタはそう説明すると、ペンダントをキラの首にかけた。
「レグルからの声は?」
「この貝殻を耳に当てれば聞こえるわ」
「有り難う」
「じゃあ、帰りも無事でね」
「ええ……でもその前に……」
「どうしたのかしら?」
「マリタさんに聞きたい事が有るんです」
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