帰還

授与式

 数日後、キラを始め王国の兵士達が城の前庭に整列していた。今回の戦における報償金の授与式が行われるのだ。兵士達が整列すると、楽隊の奏でるファンファーレと共に、国王夫妻と王女が前庭に作られた天蓋付きの壇上に姿を現した。



「皆の者、国王陛下より授与式の開会の言葉を賜る。謹んで聞くが良い!」


宰相が大声で皆に言い渡した。アラゴア王は壇上から兵士達を見渡すと、厳かな声で語り始めた。


「皆、今日は良く参られた。先日の戦では、我が城壁が破られるという緊急事態にも関わらず、皆勇敢に戦い、敵を撃滅した。諸君らの王国への忠誠心並びに、果敢なる働きに余を始め、王妃ペルタも、王女マジェンタも満足しておる。まずは諸君らの働きに感謝を述べる。通常の兵の給金とは別に、目覚ましい働きの有った者に、報償金を与えたい。宰相に名を呼ばれた者は壇上に上がり、報償金を受け取るように!」



 国王のスピーチが終わると、国王一家は壇上に設えられた玉座に腰を降ろした。続けて宰相が、順番に特別功労者の名前を読み上げた。その中にはラバンの名前も有った。名前を呼ばれたラバンは神妙な顔をして壇上に上がると、国王一家に礼をして報償金を受け取った。金貨の入った袋を腕に抱えたラバンは、意気揚々と戻って来て、隣に並んでいるキラに軽くウィンクしてみせた。キラはプッと吹き出し、直ぐに真顔に戻った。



「さて、次は少々特別な功労者である。遥か彼方の砂漠の村、カラルより勇敢な少女が馳せ参じてくれた。キラ殿だ。既に知っているものも多いだろうが、彼女はあのタリルの剣を抜き、多くの敵兵を薙ぎ払った。ここにキラ殿の勇を称え、報償を与える。キラ殿、こちらへ!」


宰相に名を呼ばれたキラは壇上に上がった。国王一家にぎこちなく礼をすると、宰相の手から金貨の入った袋を受け取る。麻で出来た袋はズッシリと重かった。会場から祝福の拍手が上がる。


「あんな少女なのか?」


「だが彼女はタリルの剣を抜いたんだぞ!」


そんな声がちらほら聞こえた。キラはちょっと照れながら会場に向かって一礼すると、元の場所へ戻った。



「やったな、キラ。その金で何でも好きなものが買えるぞ」


ラバンがキラを小突く。


「ええ……でもこのお金は母さんのために使うわ」


「どういう事だ?」


キラは事情を説明した。


「そうだったのか……母上のためにはるばる来たとは、偉いな。母上の病が治る様に、俺も祈るよ」


「有り難う。大丈夫よ、良いお医者に頼めば、きっと良くなるわ」


キラはニッコリ微笑んだ。


「でも、せっかく仲良くなれたのに、これでお別れなんてちょっと寂しいな。また機会があればこの街に来てくれよな。街を上げて歓迎するぜ」


「ええ。そうするわ」



 授与式が終わり、キラは庭の一番後ろで待っているレグルの元へと向かった。

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