師団

「おい、何だお前は?」


大通りへ向かう途中の路地から声がした。キラが立ち止まって振り向くと、二十人ほどの小師団が路地に待機している。キラはバイザーを上げると、


「私はカラルの村のキラよ。ドラゴンのレグルと一緒に皆さんの加勢に来たの」


と答えた。師団の男たちは皆キラをじろじろと眺めて、顔を見合わせた。


「お嬢さん。そいつは有り難いが、しかし何だ……あんたみたいな村娘が戦闘なんか出来るのか?」


師団長と思われる屈強そうな男がため息混じりに言う。明るいグリーンの瞳に思い切り失望の色が浮かんでいた。やっぱり普通はそう思うわよね……キラはまたか、と苦笑いする。


「それは正直私も分からないの。でも、タリルの剣を抜いたわ。それで司令官直々に加勢を頼まれたのよ」


キラは剣を振りかざして見せた。


「何? タリルの剣を抜いただと!?」


皆がわらわらとキラに詰め寄る。


「おい……本当らしいぞ。噂に聞くサファイアを嵌め込んだ剣……こいつはタリルの剣に違いない」


「お嬢さん」


「キラよ」


「キラ。タリルの剣を抜けたとなれば期待しても良いかも知れんな。我々はこれから大通りの十字路に居る敵の一団とやり合う予定だ。司令官の命とあれば、君にも加勢してもらいたい。何しろ今は一人でも多くの戦力が欲しいのでな」


「分かったわ。そのつもりよ。ええと……」


「俺はラバンだ」


「よろしく。ラバン団長」


「よし。敵は十字路で俺たちを待ち伏せする積もりの様だ。俺たちは二手に別れる。その裏の路地から弓兵と護衛が奴等に気付かれないよう回り込んで、十字路の建物の上から弓矢を浴びせる。それを合図に俺たちが突撃する。キラは俺から離れるな。分かったか?」


「了解よ」


「良し。お前たち、先に行け!」



 弓兵たちは頷くと裏通りへと静かに向かった。キラたちはしばらくそのまま待機である。


「ところで、タリルの剣だがな。どうやって抜いたんだ?」


ラバンがしげしげと剣を見つめた。


「どうも何も……抜いてみたら抜けたのよ」


キラはエヘヘ、と笑う。


「ふむ……俺たち剣士の間じゃ、タリルの剣を持つことは憧れだった。今まで幾多の名のある剣士が抜こうと試みたんだが、誰も抜けなかった。噂じゃ心の清らかな者にしか抜けないとか聞いたが……確かに、君のような少女なら心は穢れて無さそうだしな」


「後はちゃんと戦えるか? ね?」


「まあな。まともに戦えなくとも取り敢えず、生き延びることを優先してくれ」


キラが頷いた瞬間、十字路に悲鳴が響き渡った。弓兵の放った矢が敵に命中したのだ。


「よし、突撃するぞ! 着いてこい!」


ラバンは十字路へ向かって走り出した。



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