戦闘

城壁

 ハーナブの周囲を日干し煉瓦を積み上げた巨大な城壁が囲っていた。その城壁に、無数の敵兵が長い梯子を掛けて取り付いているのが上空から見える。


「よし、先ずはあいつらを殺るぞ!」


レグルはそう叫ぶと、城壁すれすれを飛びながら口からオレンジ色の炎を吐いた。灼熱の火炎が兵士を襲う。炎に焼かれて堪らず兵士は城壁から落ちた。レグルは次々に兵士を焼いていく。



「よし、あらかた城壁の敵兵は取り除いたな。次は街に侵入した奴等を片付けるぞ。街では俺の火は使えん。街ごと焼いてしまうからな。キラ、お前の出番だ」


キラは剣を鞘から抜いた。微かな振動が手に伝わる。いよいよ剣を抜いて戦うんだわ、とキラは身震いした。レグルはキラを乗せたまま、城壁を飛び越えて街へと侵入する。城壁の門から少し入った所で、敵兵とハーナブ軍の兵士が斬り合っていた。



「レグル、あそこへ向かって!」


キラは敵兵の集団を指差す。


「そのつもりだ。行くぞ!」


レグルは大きく羽ばたくと、急降下を始めた。地面すれすれを飛び、敵兵の群れへ突っ込む。キラは剣を水平に構えると、速度を利用して甲冑もろとも数人の敵兵を次々に斬り裂いた。斬り裂かれた甲冑からドッと血しぶきが上がる。敵兵はその場に崩れ落ちた。レグルは勢いのままその場を通り過ぎ、急ターンしてまた先刻の斬り合い場へ戻る。数回それを繰り返して、その場の敵を殲滅した。



「本当に殺してしまったわ……」


キラは震える声で呟いた。確かに母の病を医者に診てもらう金を手に入れるにはこれしかない。だがそのために人を殺めて良いものかしら? これで私の手は血に汚れてしまった……。キラは敵とはいえ人を殺してしまった事実に戦いていた。


「そうだな。だが、殺らなければハーナブの街は敵の手に落ちる。そうなれば男は奴隷に、女は死ぬより辛い目に会うんだぞ? そうなって欲しくはあるまい。まだ街には沢山の敵兵が居るぞ」


「そうね」


キラ血糊の付いた剣を見つめて溜め息をついた。


「レグル、私を降ろして」


「一人で大丈夫か?」


「レグルに乗ったままじゃ、狭い街路へ入れないわ。大丈夫、ハーナブの兵士と協力するわ」


「分かった」


レグルは着地した。キラはレグルから降りて兜のバイザーを降ろす。


「この先の大通りに敵の姿が見えた。気を付けてな」


「ええ。それじゃ、また後でね」


キラはそう言うと、大通りへ向かって走り出した。

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