タリルの剣

 テオとキラは城の地下へと降りていった。薄暗い石造りの通路を歩く。日が当たらないため、カビ臭い匂いが鼻についた。

 

「こっちです」

 

テオに案内されて、キラは武器庫へ入った。棚に剣やら斧やら、様々な武器が立て掛けられている。物々しい空気にキラは身震いした。テオは奥から甲冑を持ってくると、

 

「これなんか、多分丁度良いサイズだと思いますよ」

 

とキラに手渡した。キラはテオに手伝ってもらいながら、足元から甲冑を身に付けた。鈍い銀色の金属光沢を放つ甲冑に身を包むと、キラの様な小娘でも、それなりの戦士に見える。

 

「よし、サイズは良いみたいですね」

 

テオは再び奥へ行くと、厳重に木箱に保管されていた剣を取り出した。

 

「これがタリルの剣です」

 

鞘には美しい唐草模様の彫刻が施されており、エメラルドの小石が嵌め込まれていた。キラは剣を受け取った。ズッシリと重い。思いきって鞘から抜いてみた。

 

「ほう! 抜きましたか」

 

テオが驚いたような、感心したような声を上げる。

 

「このタリルの剣は、その昔ナスルという伝説の凄腕刀鍛冶が造った物です。ですが誰も鞘から抜けませんでした。噂では心の清いものしか抜けないとか。レグル殿の見立ては確かだったと言うことですね」

 

「タリルの剣……」

 

キラは改めて剣を眺めた。白銀の刃にシンプルな黒い枝。枝尻にはサファイアが嵌め込まれている。僅かだが、剣全体が振動しているようだった。

 

「私に使いこなせるかしら?」

 

「多分。何しろこの剣を抜く事が出来たのですからね。剣の導くままに任せれば良いのです。よし、先ずはレグル殿と城壁に取り付こうとしている敵兵を撃滅して下さい」

 

「分かったわ」

 

テオとキラは庭へ戻った。

 

「レグル!」

 

「おう。何だかいっぱしの剣士に見えるぞ」

 

「キラ殿はタリルの剣を抜きましたよ」

 

「そうだろうとも。コイツなら抜けると思っていたよ」

 

レグルは目を細めた。

 

「城壁に取り付こうとしている敵兵を何とかしてもらいたい。キラ殿と行って下さい」

 

「了解した。よし、一暴れしてくるか! キラ、乗ってくれ」

 

キラは鞍に乗ると手綱を取った。

 

「フフ。まるでドラグーンの様ですぞ。ご無事で!」

 

テオと守備隊に見守られながら、レグルは飛び立った。

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