ハーナブ

 上空から見たハーナブは巨大な都だった。周囲は高い城壁に囲まれていたが、一つの門が敵によって焼き落とされ、そこから敵の兵士が街に侵入しており、ハーナブ軍の兵士と剣を抜き合って戦っていた。城壁には、更に侵入口を作るべく、敵兵が取り付いている。城壁の上から守備隊が弓矢で敵兵を防いでいた。城壁外には投石器が置かれて、街を破壊しようと大きな石の玉を城壁内へ投げ込んでいる。ハーナブの中心は小高い丘になっており、丘の頂上に大きな石造りの城が建っていた。

 

「先ずは城へ行くぞ」

 

レグルはハーナブをぐるりと一周すると、城目掛けて飛行した。丘の裾野は小さな森になっており、そこから放射状に街が拡がっている。城の前庭にはハーナブ城の守備隊が整列していた。守備隊はレグルの姿を見つけると色めき立った。その脇にレグルは降り立ち、キラを降ろす。

 

「これはレグル殿。良く来て下された! やはり古い言い伝えは誠でありましたな」

 

司令官のテオが駆け寄って挨拶した。全身銀色の甲冑に身を包み、肩からサー・マントを翻して、腰にはロングソードを挿している。精悍な顔立ちに、輝くアイスブルーの眼をしていた。

 

「うん。まあ、戦の煙が見えたのでな。国王御夫妻は御無事かな?」

 

「両陛下共御無事でありますよ」

 

「敵はジルーダ王国か?」

 

「きゃつら、平和条約を破って攻め込んで来たのです。以前から王女マジェンタ様を嫁に欲しいと申しておりましたが、ペルタ王妃の強い反対でアラゴア王は断っておられたのです。その腹いせでしょう。して、こちらは?」

 

テオはしげしげとキラを見つめた。

 

「カラルの村のキラだ。友達だよ。彼女も共に戦うぞ」

 

「えっ? 私も?」

 

キラは驚いてレグルの方へ振り向いた。

 

「戦果を上げれば報償金が出るぞ。それで母さんを医者に診せたら良い」

 

レグルはパチリとキラにウィンクした。

 

「そういう事なら……。でも、この格好じゃ戦えないわ」

 

「武器庫に甲冑があります。しかし、せっかくの申し出にこう申すのはなんですが、このような、その……少女に加勢を頼むと言うのも……」

 

テオは口ごもった。無理もない。キラはどこからどう見てもただの村娘である。

 

「タリルの剣を預けてあったな。あれを出してくれ」

 

「しかし、あの剣は……」

 

「大丈夫だ。頼むよ」

 

「分かりました。ではキラ殿、私に付いてきて下さい」

 

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