王都へ向かって

「オーイ! そろそろ出発するぞ」

 

レグルが窓越しに部屋を覗き込んで叫んだ。

 

「それじゃ、マリタさん、ありがとうございました」

 

キラは席を立つと、マリタの手を握った。

 

「どういたしまして。そうだわ、これを持っていきなさい」

 

マリタはキャビネットから小瓶を取り出した。三角錐の瓶に青い液体が入っている。

 

「これはね、例の魔法の傷薬よ。どんな傷でもこれを塗ればたちどころに塞がるわ」

 

 キラは小瓶を背嚢に入れて、改めてマリタに礼を言うと、小屋の外に出た。

 

「行ってらっしゃい。気を付けてね」

 

マリタが玄関で見送る。キラはレグルの背によじ登り、あぶみに足を掛けて鞍に座って手綱を握った。

 

「よし、では飛ぶぞ!」

 

レグルはバサッと翼をはためかせると、フワリと宙に浮かんだ。池の上すれすれを飛び、更に上空へと舞い上がる。キラは鞍の上で、来たときとは違う乗り心地の良さを楽しんでいた。

 

「マリタさんから魔法の傷薬をもらったわ」

 

「そうか。あれが有れば怪我も恐れることは無いからな」

 

「ええ。ドラゴンの涙から作られているんですってよ。ドラゴンも泣くのね」

 

キラはからかうような調子で言った。

 

「それは何かの間違いだろう。ドラゴンは泣いたりしない」

 

「そうかしら?」

 

「そうだとも」

 

キラはウフフと笑うと、空を見上げた。青空に真っ白な雲が浮かんで、その狭間から太陽が顔を覗かせている。砂漠の太陽は全ての生命を焼き焦がすような激烈さだったが、ここでは森を育む優しい光を放っていた。

 

「森を抜ければハーナブは直ぐだぞ」

 

レグルはスピードを上げてハーナブを目指した。巨大な森が遂に途切れ、広い平原が眼下に広がった。遠くに黒い煙が見える。

 

「戦だな」

 

レグルが呟いた。

 

「戦……。じゃあ、やっぱり、マーニーの言っていたことは正しいんだわ」

 

「なんだ、それは」

 

「キャラバン隊の隊長が言っていたわ。ドラゴンは戦が起きると現れるんだって」

 

「フン。言っておくがな、ドラゴンが戦を引き起こしているわけではないぞ。戦を起こすのは何時だって人間だ。だが俺は古い盟約により、サハル王国に戦が起きた時には王国を守らなければならん」

 

「そうなの?」

 

「そうだ。サハル王家との約束だからな。急ぐぞ。落ちるなよ」

 

レグルは更にスピードを上げた。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る