マリタの話

「今、お茶を入れますから、待っていて」

 

マリタはそう言うとキッチンへ向かった。キラは改めて部屋を見回しながら、マリタとレグルについてあれこれ思いを巡らせた。魔法の服を持っているなど、マリタは何者なのだろうか? レグルとはいつから友達なのだろう? ドラゴンも見てしまった事だし、マリタが魔女でも驚きはしないが、もし魔女なら、魔法で母の病気を治せないものだろうか?

 

「紅茶で良かったかしら?」

 

マリタはお盆にティーポットとカップを乗せて運んできた。

 

「マリタさんは魔女なんですか?」

 

キラは思い切って聞いてみた。

 

「あら、ウフフ。まあそんなものかも知れないわね」

 

「だったら、魔法で私の母の病気を治せないものでしょうか?」

 

「そうねえ。魔法で治せる病気と治せない病気があるわね」

 

マリタはカップに紅茶を注ぎながら話した。ふくよかな香りが部屋に満ちていく。

 

「その病気が、魔法によってかけられたものとか、誰かの呪いを受けたものとか、そういうのなら治せるわ。でも、貴女を見る限り、貴女のお母様も良い人そうだから、他人からその様な仕打ちを受けたということは考えにくいわね」

 

「そうですか……」

 

「お茶、どうぞ」

 

「ありがとう。頂きます」

 

キラは溜め息をついて紅茶を口に含んだ。

 

「あの、それじゃレグルとはどうやって知り合ったんですか?」

 

「あれは、私がまだ若くて……。魔女見習いの頃だったわ。師匠から魔法の傷薬を作る為にドラゴンを探して、その涙を取ってこい、と言われてね。ドラゴン探しの旅に出たのよ。まあ途中色々あったけど、とうとうレグルを見つけ出してね」

 

「でも、涙なんて……」

 

「そうよね。『貴方の涙がどうしても欲しいの』って訴えたけど、『ドラゴンは泣いたりなぞしない』の一点張りでね」

 

マリタはフフフと笑った。

 

「で、どうしたんですか?」

 

「『手袋を買いに』っていう童話を話して聞かせたわ。狐の親子がいて、冬に仔狐が寒がるんで、母親が仔狐の手を人間の子供の手に変えて、お金を持たせて、街へ手袋を買いに行かせるの。『この手をドアの隙間から入れて、姿は見せずに、この手に合う手袋を下さい、って言うんだよ。狐だってばれると酷い目にあうから』と言い聞かせてね。仔狐はお店へ行ってドアを開けると、間違えて狐の手の方を隙間に入れて、『この手に合う手袋を下さい』って言うの。店主はお金が本物であることを確認すると、黙って手袋を仔狐の手にはめてあげたのよ」

 

「その話を聞いて泣いた? レグルが?」

 

「ええ」

 

「ふーん」

 

キラはニヤニヤしながら紅茶を飲んだ。レグルったら、見た目は厳ついけど、案外優しい心の持ち主なのね。



*「手袋を買いに」新美南作

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