シロルの森

 砂漠を抜け、眼下の景色は深い森へと変わっていた。キラは半ば呆れたように木々の群れを眺める。深緑が目に鮮やかだった。

 

「これ、皆木なのね」

 

「シロルの森だ。驚いたか?」

 

「ええ。世界は広いのね」

 

「ちょっと寄り道していくぞ」

 

レグルは大きな池を目掛けて下降して行った。水面すれすれを滑るように飛行する。池の水面が波立ち、浮かんでいた水鳥が慌ただしく飛び立って行った。眼前に丸木で出来た小屋が見える。小屋の前まで辿り着くと、レグルは着地した。

 

「この家は?」

 

「古い友人の家だ。よし、降りてくれ」

 

キラを降ろすとレグルは大声で叫んだ。

 

「マリタ!」

 

 ドアが開いて、老婦人が出てきた。長い白髪を後ろで三つ編みに編み、白いブラウスに黒いベルベットのベストを着て、同じくベルベットの深い緑のスカートを履いている。

 

「レグル! 久しぶりね。こちらは?」

 

老婦人はキラを見て訊ねた。

 

「カラルの村のキラだ。友達さ。鞍を預けてあったろう? 着けてくれ」

 

「良いわよ」

 

マリタは小屋の隣に有る物置から大きな革の鞍と頭絡とうらくを担いで持ってくると、鞍をレグルの背中に取り付けた。頭絡も頭に装着する。頭絡には手綱が着いていた。

 

「これで乗りやすくなるだろう?」

 

レグルはキラを見てウインクして見せた。

 

「貴女にも服をあげるわ。それでは空の旅は厳しいでしょうから。中へ入って頂戴」

 

マリタはキラを促した。小屋の中へ入ると、

 

「座って寛いでいて」

 

と言い、奥の部屋へと消えた。キラはオレンジ色の布張りのソファーに座ると、部屋を見回した。丸木を組み上げて出来た壁に板張りの床。素朴で可愛らしいキャビネット、小花模様をあしらった真紅の絨毯……。

 

「なんだか、お伽の世界ね」

 

「お待たせしたわね」

 

マリタが部屋へ戻って来た。

  

「これを着ていくと良いわ」

 

キラは差し出された服に着替えた。白いチュニックにベージュのズボン。至って普通の格好だが、着た途端に体がふわふわと軽くなった。まるで自分が空気にでもなったかのようである。

 

「この服は?」

 

キラは不思議そうな顔をして訊いた。

 

「ふふ。これはね、魔法を込めて作った服よ。風の属性を持っているわ。これを来ていれば身のこなしは風のように軽やかになるわよ」

 

「風の属性……」

 

確かに言われてみればこの軽やかさは風の様である。

 

「どうも有り難う。でも、私何もお返しするものが無いわ」

 

「フフフ。良いのよ。レグルの友達なら、良い娘に決まっているもの」

 

マリタは優しい笑みを浮かべた。

 

 

 

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