お医者

「お待たせしました。旦那様がお会いになります」

 

しばらく待っていると、使用人がキラを呼びにホールへ戻って来た。キラと入れ違いに中年の裕福そうな御婦人がホールへ出てきた。恐らく患者なのだろう。使用人に付いていくと、部屋へ通された。

 

「旦那様。キラ様をお連れしました」 


広くて白い部屋の奥にあるデスクの椅子にドッシリ腰掛けた、太った中年の銀髪の男がジロッとキラを見る。

 

「そうか。ご苦労。下がって良いぞ」

 

「失礼します」

 

「キラとか言ったかね、こちらのソファーへ」

 

キラはデスクの向かいにある革張りのソファーに腰掛けた。

 

「それで? どういった用件かね?」

 

「はい。私の母が病気なんですけど、家は貧乏で診察代が払えないのです。診察代をまけてもらう事は出来ませんか?」

 

「ふむ……」

 

男は椅子にふんぞり返り、手を腹の上で組んで、鼻から深く息を吸うと、

 

「可哀想だが、ワシもこれで生活しているのでね。残念だが、ご期待には沿えないな」

 

と言って、余った息を鼻から吐いた。

 

「そうですか……。でも、見たところ、とても豊かにお暮らしですよね。貧乏な私の母を一人救うくらい、どうということは無いのではないでしょうか?」

 

キラは食い下がる。

 

「そうは言うがね。ワシはニジェラで大学まで出ておるんだよ。つまり、医者になるために莫大な金を投資しておる。更に、この屋敷を維持していくためにはそれ相応の費用が必要だ。まけてやることは出来んね。さ、用件は済んだ。帰るんだね」

 

男は冷たく言い放った。

 

「分かりました」

 

キラはため息を一つついて、部屋を出た。

 

 追い出されるように屋敷を出たキラは、トボトボと道を歩きながら、周りの高級住宅を見て思った。ウルの街へ来ればなんとかなると思っていたけど、街の人は皆プライドが高くて冷たいわ。皆お金儲けの事しか考えていないみたい。既にこんなに贅沢な暮らしをしているのに。キラの胸を諦めと後悔が締め付けた。

 

 キラはミハリの事を思い出した。ミハリは田舎よりこんな人心の荒んだ街の方が好きなようだ。ミハリだって下働きで大した稼ぎでも無いだろうに、何故だろう? 明日店に行ったら聞いてみようか? キラは弱々しい足取りで家へと向かった。

 

 

 

 

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