到着
村を出発して十日目の昼過ぎ。辺りには小麦畑が広がっていた。
「こんなに大きな小麦畑、初めて見たわ」
キラは驚きと共に周囲を眺めた。黄金色の海の様に、小麦が風に揺られて波打っている。遠くに城壁で囲われた街が見えた。
「あれがウルの街だ」
マーニーが指差した。キラは期待に胸をときめかせた。いよいよウルの街へ到着するのだ。
近付いてみると、予想以上に街は大きかった。見上げるような日干し煉瓦の城壁が街を取り囲んでいる。一行は西の門から街へと入った。通りを少し進むと、活気溢れるバザールの色彩の洪水がキラを襲った。緋色や碧や黄色の絨毯、銀食器のきらびやかな輝き、細かな金色の刺繍を施した紫色の衣装……。初めて見る色とりどりの商品に、キラは軽く目眩を覚えた。
「凄いわ! こんなに沢山の商品があるなんて」
興奮して辺りをキョロキョロと見回す。
「私達はここのバザールで商品の取引をする。ここでお別れだ、キラ」
マーニーはラクダを降りた。三人もラクダを降りた。
「今まで有り難う。お陰で無事にウルの街に辿り着けたわ」
「何、荷を運ぶついでだからな。大した手間でも無かったさ」
ビランが笑った。
「俺は、キラと一緒で楽しかったぜ」
チトがキラの背中を叩いた。
「私達は二ヶ月おきにウルの街まで来るんだ。街には三日滞在する。帰りも送ってやっても良いから、カラルへ帰る時期になったら、タイミングを見計らってこのバザールへ来れば、私達を見付けられる」
「分かったわ」
キラは三人と握手して別れた。
「そうだわ。砂漠の薔薇!」
キラは砂漠の薔薇を買ってくれそうな店を探してバザールを歩き回った。通りを歩いている中年の女性に声を掛ける。
「すみません。砂漠の薔薇を店に売りたいんだけど、何処に行けば取り扱っていますか?」
女性は全身砂だらけのキラを見て、一瞬顔をしかめたが、
「ああ、そういう物なら、この先の宝石店で取り扱っているね」
と教えてくれた。
キラは、宝石店を見付けて入ってみた。店頭に磨き抜かれた宝石や、鉱石が並んでいる。
「今日は~」
「いらっしゃいませ……って、何だ。ここはお前の様な奴が来る店じゃないぞ。店の信用に関わる。帰った、帰った!」
店主はキラを見るとさも汚い物でも見るような目付きで追い払おうとした。
「いえ、あの……。私はお客じゃないんです。これを買って頂けないかと思って」
キラは袋から砂漠の薔薇を取り出した。
「おやおや、これはこれは……。ふむ。上物じゃないか。そういう事なら良いんだ。うちで買わせてもらうよ。五万ペタでどうかね?」
「良く分からないから、お任せするわ」
「よろしい。五万ペタで買わせてもらうよ」
店主はニコニコしながらお金を手渡した。
「有り難う」
キラはニンマリ笑って店を後にした。
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