ウルの街

公衆浴場

 キラは仕事を探すことにした。だが、どうして良いか分からない。道行く中年男性に話しかけてみた。

 

「すみません。仕事を探しているんですけど、何処に行けば見つかりますか?」 

 

「ああ、それなら中央広場に行けば、求人の立て看板があるよ。でも、その成りじゃあね……。広場に公衆浴場が隣接しているから、先ずは風呂に入って砂を落とすことだね」

 

「有り難う」


キラは改めて自分の姿を見てみた。確かに全身砂だらけだ。キラはバザールを抜けて、中央広場へと向かった。

 

 日干し煉瓦で出来た三階建ての四角い建物が並ぶ通りを歩く。村では三階どころか二階建ての建物すら見たことが無かった。キラは感心して建物を眺めながら歩いた。通りを抜けると円形の広場に出た。広場の周りはレストランやカフェがひしめき合っている。一際大きな建物が目を引いた。

 

「きっとあれね」

 

キラは広場に溢れる人を掻き分けて、公衆浴場へ向かって歩き出した。アーチ型の入り口を入ると、受け付けに若い女性が立っている。そうだったわ、街では何でもお金が必要なんだった。キラは宝石店で受け取った巾着を出して聞いた。

 

「幾らで入れますか?」

 

「六百ペタになります。石鹸と海綿は御入り用ですか?」

 

「石鹸って、何ですか?」

 

女性は呆れた顔をして、

 

「あなた、一体何処から来たの? 石鹸は体を洗うのに使うのよ。海綿に擦り付けて、泡立てて洗うの」

 

と言ってため息をついた。

 

「はあ。じゃあ、その石鹸と海綿も下さい」

 

「百ペタ追加よ」

 

キラはお金を支払うと、脱衣場へ入った。服を脱ぐと、ポロポロと砂がこぼれ落ちる。服を籠に入れ、お金の入った巾着と、石鹸と海綿を持って浴室のドアを開けた。

 

 灰色の石で作られた広い浴室には、二十人程の女性達が、それぞれ体を洗ったり、水風呂に浸かったりしていた。キラは初めて見る大きな水風呂に驚いた。村では水は貴重だったため、水に濡らした手拭いで体を拭くか、砂風呂に入るかしかしたことが無かったのだ。キラは桶を掴んで浴槽から水を組むと、海綿を浸した。言われた通り石鹸を擦り付けて泡立てる。オリーブの匂いが漂った。泡で体を洗うと、みるみる汚れが落ちていった。

 

「凄いわ。こんな便利な物が有ったなんて」

 

キラは頭の先から足の先まで石鹸で洗うと、桶の水で泡をすすいだ。体を綺麗にしたところで、水風呂に入ってみる。冷たさに一瞬怯んだが、思いきってドボン、と入ってみた。冷水の刺激に身が縮む。慣れてくると、水の冷たさがかえって気持ちが良かった。

 

「あんた、何処の出身だね? 街の人じゃないね」

 

さっきからチラチラとキラを目で追っていた、太った中年女性が声をかけた。白い肌に丸いライトブルーの瞳をしている。髪は明るい栗色だった。

 

「カラルの村よ」

 

「カラル? 聞いたことないねえ」

 

「砂漠の向こうの小さなオアシスの村なの」

 

「そうかね。そんな辺鄙へんぴな所から来たんじゃ、色々大変だろうね。街ではどの辺りに住んでいるんだい?」

 

「着いたばかりで、まだ決まっていないの」

 

「良かったら、家に住むかい? もちろん部屋代は払ってもらうけどね。一月一万ペタでどうかね?」

 

「じゃあ、そうさせてもらおうかしら?」

 

「決まりだね。私ゃペトラだ。風呂から上がったら、付いておいで」

 

「私はキラよ」

 

「キラか。良い名前だね」

 

ペトラは豪快に笑った。

 

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