井戸

 昼過ぎ、一行は小さなつるべ式の井戸に辿り着いた。粘土質の地面に深い穴が掘られており、周囲を石で囲ってある。隣に家畜用の大きな水飲み桶が設置してあった。

 

「よし。着いたな。今日はここで水を補充していくぞ。ラクダ達にも水を飲ませるんだ」   


 マーニーはラクダを降りて指示を出した。チトがつるべを井戸に落とし、ガラガラと引き上げる。水の一杯入ったつるべをビランが受け取って、隣の水飲み桶に開けた。

 

 炎天下、延々二十回もつるべを引き上げ、水飲み桶を一杯にした。マーニーはラクダ達を連れてくると、水を飲ませる。ラクダ達は言われるまでもなく、嬉しそうに水を飲んだ。次は人間用である。

 

 今度はビランがつるべを引き上げた。マーニーは荷物からヤギの皮で出来た大きな袋を四つ下ろして、漏斗ろうとをキラに渡す。

 

「これを袋の口に差して、押さえていてくれ」

 

チトが受け取ったつるべから漏斗に水を注ぐ。四つの袋が満タンになると、それぞれ個人用の水筒に水を入れた。

 

「砂漠の真ん中に井戸が有るだなんて、想像していなかったわ」

 

キラは水を一口飲んで言った。

 

「この辺りは地下水脈が通っているのさ。だから地上にも植物が生える。昔から我々キャラバン隊の給水基地だ」

 

マーニーはラクダの首を撫でながら答えた。

 

「他にも給水基地はあるのかしら?」

 

「勿論だ。キャラバンのルートは給水基地を辿るように出来ている。どれだけ給水基地を把握しているかで、優秀な隊長かどうかが決まると言っても良い」

 

「じゃあ、水の心配はしなくて良いのね」

 

「井戸が枯れない限りはな」

 

「じゃあ、お前たちも安心ね」

 

キラはラクダの鼻面を優しく撫でた。

 

「ブヒィーン!」

 

ラクダがぎこちなく鳴いて、首を振る。

 

「それは駄目だぜ。ラクダは鼻面とか頬とかに触られるのを嫌がるんだ」

 

チトはラクダに近寄り、

 

「ラクダはほら、こんな風に首とか脇腹を撫でてやるのさ」

 

言いながら脇腹を撫でた。

 

「そうなの。知らなかったわ」

 

キラは言われた通り脇腹を撫でた。ラクダは気持ち良さそうに目を細めた。

 

 人心地付いたキラは、周囲を見渡した。井戸の向こうに、何かキラキラと光る塊がある。不思議に思って近づいてみると、大きな薔薇の花の形をした鉱石だった。まるで砂糖でコーティングされているかの様に、表面に砂が着いている。

 

「ねえ! これは何かしら?」

 

キラはマーニーに向かって叫んだ。マーニーはキラの所へ歩いていって塊を見た。

 

「これは『砂漠の薔薇』だ。ミネラルが固まって出来るのさ。水の有る所に良く出来る。街では高値で取引されているから、持っていって売ると良い」

 

「綺麗な石ね」

 

キラは袋を持ってきて、砂漠のバラを詰めた。

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