ドラゴン座

 途中休憩を入れながら、夕方までキャラバン隊は歩き続けた。日が地平線に近付き、広大な空をオレンジ色と金色に染める。キラはいい加減お尻が痛くて、ジリジリしていた。マーニーはラクダを止めると後ろを向いて、

 

「よし! 今日はここにテントを張るぞ! 皆降りてくれ!」

 

と叫んだ。三人はラクダから降りて、テントを積んであるラクダの周りに群がった。チトが荷を解いて、キラがテントの支柱を運ぶ。

 

「この辺りで良いかしら?」

 

キラは支柱を持ってビランに話しかけた。

 

「良いと思うぞ。深く砂に埋めてくれ」

 

キラは思い切り支柱を砂に埋め込んだ。テントは一本の支柱で布を支えるワンポールテントである。ヤギの毛で織った白い三角形の布を六枚繋ぎ合わせて、六角錐の形に縫ってある。ビランとチトが支柱に布を掛けた。六つの角にそれぞれ紐が付いている。紐を小枝に結びつけて、砂に刺した。中にゴザを敷き、その上に青い絨毯を敷く。就寝用の毛布を隅に置いた。

 

「以外と簡単ね」

 

キラは満足そうにテントを眺めた。

 

「次は食事の準備だ。火を起こしてくれ」

 

マーニーは弓ぎり式の火起こし器をキラに渡した。キラは小枝と鉄の棒で鍋を吊る装置を組み立てて砂に刺した。板にナイフで窪みを掘り、弓の弦を棒に巻き付けて、棒を窪みの上にに立たせる。乾燥した草を根本に置いて板を足で踏み、棒の上に窪みの付いた小さな板を嵌めて手で抑えた。弓を前後にスライドさせると、クルクルと速い速度で棒が回る。勢い良く棒を回すと、摩擦熱で棒と板の間から煙が上がった。火種が草に燃え移る。キラは風で火が消えないように注意しながら、火を薪に燃え移らせた。

 

「中々上手いじゃないか」

 

マーニーはヤギの皮で出来た水筒……と言うより袋から鍋に水を入れると、羊の干し肉と乾燥野菜を浮かべて火の上に鍋を釣った。

 

「家で火を起こす時もこれ使っていたから」

 

キラは笑う。

 

「そうか。荷物の中に焼きしめたパンとお椀とスプーンが有るから、出しておいてくれ」

 

「分かったわ」

 

 日も落ちた頃、四人は車座になって火を囲み、食事をした。パンにスープと、普段家で食べている物とそれほど違いは無かったが、長い移動の後、砂漠のど真ん中で食べるそれは格別だった。

 

「今まで食べてきたスープの中で、一番美味しいかも知れないわ」

 

キラはホクホクしながらスープを飲んだ。

 

「そうだろう。砂漠でする食事は最高さ! 街の奴等は俺達を野蛮人と蔑むけど、俺は砂漠が好きだぜ。星だって眺められるしな」

 

チトは天を指差した。上に目をやると、黒いビロードの様な空に満天の星が輝いている。余りに星の数が多いので、夜であるにも関わらず、辺りが明るく感じられた。

 

「あれは巨人座さ」

 

ビランが指差して、星を人の形に結んだ。

 

「その隣がラクダ座で、その上に有るのが蠍座だ」

 

キラはワクワクしながら星座の形を指でなぞった。星座等というものが有るとは今まで知らなかった。

 

「だが、我々にとって一番大事なのはあのドラゴン座だ」

 

マーニーがドラゴンの形に星を結ぶ。

 

「ドラゴン座?」

 

「そうだ。あの青い星がドラゴンの目だ。あの赤いのは心臓だ。目と心臓を結んだ線を五倍すると、天の南極に辿り着く。天の南極はいつも変わらないから、旅の目印になるんだ」

 

「ふーん。でもドラゴン座なんて変ね?」

 

「何故だ?」

 

「だって、巨人はもしかしたら居るかも知れないけど、ドラゴンなんて本当に居るのかしら?」

 

「私は見たことは無いが、噂では居るって話だぞ。大きな戦が起きると現れるとか。それで人の死肉を喰らうとか」

 

「戦……。じゃあ、ドラゴンなんて見ないに越したことは無いのね」

 

キラは星座を見ながら呟いた。

 

「そうかもな。よし、明日も朝早くから出発するんだ。片付けて寝よう」

 

マーニーはスープを飲み干すと立ち上がった。

 


 


 

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