砂漠

出発

 出発の日の朝。キラはダンに貰ったサンドベージュのマントと、ビスケット色のブーツを身につけた。首からナジャに貰った御守りを下げ、干し肉や乾燥野菜を詰めた袋を背負う。羊の胃袋で出来た水筒を肩から下げて、居間へ行くと、マナナとタカが待っていた。

 

「気を付けて行くんだよ」

 

タカがマントを直しながら言う。マナナは無言で目に涙を溜めていた。

 

「じゃあ、行ってくるから」

 

キラは二人を抱き締めると家を出た。朝日が村を鮮やかに輝かせている。この美しい村ともしばらくお別れだ。キラは未知なる冒険への期待感と、不安を胸に村の外れまで歩いた。

 

 村外れには十二頭のラクダのキャラバン隊が待機していた。その周りを村長をはじめ、大勢の村人が取り囲んでいる。キラが到着すると、皆口々に激励の言葉を送り、抱き締めた。ダンとナジャが抱きついた。

 

「頑張れよ!」

 

「うん! 行ってくるね!」 

 

キラはニッコリ笑って、二人を抱き留めた。

 

「皆さん。見送り有り難う。行ってきます」

 

そう告げるとキラはキャラバン隊へと向かった。隊長とおぼしきターバンを巻いた彫りの深い顔立ちの黒い瞳の男が挨拶した。

 

「私はキャラバン隊の隊長のマーニーだ。話は村長から聞いているよ。無事ウルまで送り届けてやるから心配するな。こっちの背の高いのがビランで、低いのがチトだ。よろしくな」

 

「私はキラよ。よろしくお願いします」

 

「よし、ではラクダに乗って」

 

キラは案内されるままに座り込んでいる一頭のラクダの背に乗った。ラクダの背中にはクッションで出来た鞍が装着されている。キラを乗せるとラクダは立ち上がった。

 

 マーニーのラクダを先頭にして、キャラバン隊は出発した。間にチト、キラと続き、殿しんがりはビランだった。人を乗せていないラクダには荷物が括り着けてある。ウルの街へ届ける交易品と、道中の必需品だ。

 

 ラクダはマーニーに従って、ゆっくりと歩を進めた。村の外は砂漠を渡る風が吹き流れ、それに合わせて足元の砂が更々と流れる。進行方向には抜けるような青い空と黄土色の砂と、点在する岩山以外何も無かった。この茫漠ぼうばくたる砂漠の、どこをどう通ればウルの街へ辿り着くのか、キラにはサッパリ分からなかった。キラは後ろを振り返って見た。砂の向こうに小さく村が見える。私本当に旅に出たんだわ、と少し不安になった。

 

 

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