My Favorite Things

僕凸

My Favorite Things

 「私のお気に入り」というミュージカルナンバーがありますよね。『サウンド・オブ・ミュージック』でマリア先生が歌う曲。あの曲の歌詞って、本当にただマリア先生の好きなものを並べただけで、ほとんどそれだけで曲になっているのがすごくって、多分そんな歌って他にないと思うんですよね。それで僕も、自分の好きなものだけを並べてプロフィールを作れるかどうか試してみようと思いました。「私のお気に入り」の原題は“My Favorite Things”で、favoriteという語の基本的な意味は「一番好きな」なので、本当に一番好きなものだけを並べたリストを作ります。それぞれコメント付きで。


My Favorite Jazz Musician: Pat Metheny Group(以下PMGと略す)

 PMGの音楽は狭義のジャズではないけれど、パット・メセニーは自身をジャズミュージシャンだと定義しているということでここに入れました。この人たちの作り上げたアルバムのいくつかは間違いなく20世紀音楽の理想形の一つで、それを聴いていると、とにかく満ち足りた気分になります。


My Favorite Jazz Album: The Tony Bennett / Bill Evans Album

 とはいえPMGのアルバムを「一番好きなジャズのアルバム」と言うのには抵抗があるので、ここはビル・エヴァンスにご登場願いましょう。このささやかなデュエットアルバムをエヴァンスの代表作と呼ぶ人は少ないようですが、歌の伴奏だからこそ一層繊細さを増し、それでいてウィットに富んだここでのエヴァンスのピアノ演奏が僕はとても好きです。


My Favorite Musician in Classical Music: Glenn Gould

 やっぱりグールドの弾くバッハっていうのはクラシック音楽の一つの最高峰だと思うんですよ。『ゴルトベルク変奏曲』(2回録音しているけれど僕は1回目の方が好きです)と『平均律クラヴィーア曲集』は本当にすごい。これを聴かずして音楽を知った気になってはいけない、と言っても過言ではないかもしれませんね。


My Favorite Piece of Classical Music: マーラーの交響曲第3番

 とにかく異様に長いんですが、しっかり聴いてみると不必要な部分はないように思われます。この曲はこのように書かれなくてはならなかったのだ、という音楽それ自体の説得力が強くて、あまり退屈には感じられません。最弱音から20分以上かけてクレッシェンドしていく終楽章は、クラシック音楽にこれ以上は望めないほどの感動を与えてくれます。


My Favorite Novelist: 村上春樹

 中学2、3年生のときにはまりました。何というか、現代社会に生きる人間の心の闇というかニヒリズムというか、そういうものをすごく巧みに描き出しているところに惹かれたんですよね。でもそういうネガティブな心理に対する解決を提示しない限り、村上春樹はノーベル文学賞は取れないだろうと僕は思います。


My Favorite Book: 吉田健一『時間』

 この本は本当にすごいです、と言いつつまだ半分しか読めていないのですが、こんなに意味がわからないのに感動させられた本って他にないです。このすごさは読んだ人にしかわからないと思いますが、内容を一言で言えば、すべては時間の流れの中にあるということをひたすら論じた随筆です。僕の世界観はこの本によってすっかり変わってしまいました。


My Favorite Movie: Amour (directed by Michael Haneke)

ほとんど家からカメラが出なくて、延々と老夫婦の生活を撮っている、とそれだけ聞くとすごく退屈そうな映画だと思いますよね。確かに見ていて時間は長く感じるけれど、でも不思議とスクリーンに目が吸い込まれて、注意が散漫にならないんです。そして、長い人生にもいつかは終わりがやってくる、という当たり前のことを切実に感じさせられます。


My Favorite Food: オムライス

 僕は食に対するこだわりが薄く、高校生の頃までは空腹という感覚がわからなかったくらいなのですが、オムライスだけはたまに食べたくなることがあります。


My Favorite Season: 春

 気候に体調が左右されやすい僕は、夏は体がばてて、冬は気が滅入ってしまいます。春か秋かでいうと、同じ気温でも秋は時間の流れが少しせかせかしているような気がするので春の方が好きです。自分の誕生月が4月というのも多少は関係があるかもしれません。


My Favorite Country: 日本

 生まれてからずっと日本人として生活してきて、こういう生き方は割と自分に合っているな、と感じます。まあ日本という国は問題山積みではあるけれど、ある種満ち足りた場所だとも思えます。


My Favorite Place: 自分の家(実家)

 超インドア派なので、用事がなければ本当に引きこもりっぱなしになります。ベッドに寝転がって枕元のスピーカーで流す音楽を聴くのが一番の幸せ。


 こんなところでしょうか。やっぱりこれだけでは僕がどういう人間かほとんどわかってもらえない気がしています。しかしそれは普通に自己紹介したって同じことです。

 さて、「私のお気に入り」の歌詞は、最後の連でまとめに入ります。終わりから3行を訳してみましょう。作詞はオスカー・ハマースタイン2世。


 When I'm feeling sad

 I simply remember my favorite things

 And then I don't feel so bad

 悲しいと感じているとき

 私はただ 一番好きなものたちのことを思い出す

 そうすれば そんなに悪くはない感じがする


 マリア先生はこう歌っています。僕もこれからは、悲しいときには一番好きなものたちのことを思い出して、悪くはないと感じられるように心がけたいと思います。

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