第8話

「葵、 今日、何度も電話してたのに、どうして出てくれなかったの?」


 電話?

 そっか。。映画館に入った時からずっと電源切ってたんだった。


 慌ててスマホの着信履歴を確認した。


 着信が5件。

 名前は望月直哉。。。

 何これ。。いつの間に連絡先の交換したんだろう


「望月。。直哉。。さん。

 どうして。。電話」


「どうしてはこっちのセリフだよ」


 葵が話し終わらないうちに、直哉がたたみかけてくる。

 相当怒っているようで、興奮して声も大きくなる。


 相手は殺人犯だ。あまり刺激しないように気を付けないと。。。


「ごめんなさい。あの、今日はちょっと映画を見に行ってたものだから。スマホの電源切っちゃってて」


「映画、誰と見に行ってたの?」


「友達だけど。。」


「せっかく仕事が早く終わったから一緒にコーヒーでも飲もうと思ったのに、俺とその友達とどっちが大事なの?」


 どっちがって言われても。。私の方は今、会ったばっかりだし。。。


「あの。。私達、付き合ってるって訳じゃ。。ないでしょ?」


 一応、確認の為にお互いの関係性を聞いてみた。


「付き合ってない?」


 また声を荒げて直哉がたたみかけてくる。


「俺達は運命的な出会いをした。葵があの時、鞄を拾ってくれなかったら、俺達は一生出会う事はなかった。あの時あの場所に偶然居合わせる可能性がどのくらいあるか。。

 俺達がその偶然で出会えたのは運命だからだ。」


 やっぱりそうか。


 私が鞄を届けた方の世界にシフトしたんだ。


 これはかなりヤバイ。


 とりあえず今は、この状況から何とか抜け出さないと。。。


「今日は本当にごめんなさい。この埋め合わせはまたします。

 今日はちょっと急いでるので、これで失礼します」

 そう言って帰ろうとしたが、


「いつ?」

 後ろから直ぐに問いかける声が聞こえて来た。


「次はいつ会ってくらるの?次の約束をしてくれるまで、帰さないよ」


 次の約束なんてしたくないけど。。

 しょうがない。とりあえず今はこの場から逃げるのが先決。


「じゃぁ。。来月の。。」


「それじゃ長すぎる。来週の今日。時間と場所は後で連絡する。約束だからね」


 人に聞いといて自分で決めてるし。。

 なんて勝手な男なんだ。

 そうは思ったものの、早く立ち去りたくて葵は了承した。


「わかりました。じゃ、私はこれで」


 葵は逃げる様にその場を離れた。

 直哉がずっとこっちを見て立ち尽くしてるのが目の端に写ったが、気にせず走って立ち去った。


 家に帰ってから、これから直哉にどう対処していったら良いか考えようと思ったが、全く考えがまとまらない。


 相手はストーカー気質の殺人犯


 どうしよう。仁に相談してみようかな。


 そう思っていた時、急にスマホの着信音が鳴って、その音にびっくりして飛び退いたが、恐る恐る覗き込むと、仁からの着信だった。


「ごめん。なんか心配になってさ。。大丈夫だったかなと思って。。」


「仁。ありがとう。大丈夫じゃないの。全然大丈夫じゃないのよ」


 仁の声を聞いた途端、安心して感情が一気に溢れだした。










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