第4話

 ある日の朝、突然TVが壊れた。


 最近調子が悪くて時々画面が暗くなったりしてたのでヤバイなぁとは思っていたが、とうとう何も写らなくなった。

 その上電源が勝手に入ったり切れたりして、まるで霊現象だ。


「これはもう買い替えないとダメだね」


 朝起きたら真っ先にTVを付けるのが日課の茜が、真っ暗な画面を前に残念そうに呟く


「もう買ってから10年以上になるもんね。せっかくだから、大型TV買おうか。」


「いいね。買おう買おう!次の休み、一緒に買いに行こうよ。まだちょっと日にちあるけど、楽しみ。大型TVで見る映画は最高だよー」


 何だかTVが壊れて良かったかのような茜のテンションの上がりっぷりに、葵まで思わず笑ってしまった。


 次の日こそTVが無い朝は物足りなく感じたが、二日目にはもう無くても平気になっていた。


 そんな中、葵の仕事が早く終わって夕飯の用意をしている時に、茜が慌ただしく帰って来るなり大興奮で、


「聞いて。いいTV見つけちゃった。50型の4k

 9万8千円。もう絶対あれに決めた!!」


 言うだけ言ってこっちの返事を聞かずに自分の部屋に入って行った。

 9万8千円かぁ。だいたい10万くらいね。

 4kじゃなかったら安いのかな。。


 葵はどこの店で売ってたか茜に聞こうかと思ったが、どうせ一緒に買いに行くんだから別にいいか。と思い直して夕飯作りの続きにとりかかった。


 そして、いよいよTVを買いに行く日。

 葵は電気屋さんにこだわりがなくどこでも良いので、茜の行きたい所でいいからと言い、家から徒歩で30分ぐらいの所にある大手の電気屋さんに行ってみる事にした。


 電気屋さんと言うのは、目的の物が決まっていても、つい他の製品に目移りしてしまって、なかなか目的の場所にたどり着かなかったりするものだが、この二人も例外出はなかった。


 店に入って最初に目にした美顔器に二人とも夢中になっていた。が、葵が途中で我に返り、


「茜 今日はTVでしょ。あんたが欲しいって言ってた大型TVだよ」


「そうだった。こんな寄り道してる場合いじゃないよね」


 そして売り場に行ってみると、どれも4kTVだった。

 価格はだいたい15万から17万ぐらい。


「茜。今ってもうみんな4kなんだね」

「そうみたいだね。あの15万ので充分だと思うけど、お姉ちゃんはどう思う?」

「私は別にどれでも。。茜が良いならそれでいいよ」


 そう言ってからふと、この前茜が言っていた言葉を思い出した。そう言えば4kで9万8千円はどうなったんだろう。。。


「ねぇ、この前言ってた4kで9万8千円のTVってこの店じゃなかったの?もう売れちゃったとか?」


 するとそれを聞いた茜は何の話かわからないと言う顔をして


「そんな事言ってないけど。。」


「やだ!止めてよ。あんなに喜んで帰ってきて、良いのがあった。絶対あれにするって言ってたじゃない」

 半ばパニック気味に葵が言い返した。


「言ってないものは言ってないし、それっていつの話?」


「。。。」


 いつ?この問いに葵は答えられなかった


「私、ここんとこずっと仕事遅くて、見に行く暇なんてなかったんだけど。。。私が言ったって言うならいつの話か教えてよ!」


 本当だ。確かに茜はずっと仕事が遅くて帰ってくる時間は毎日10時は過ぎていた。

 だけどあの時、私は夕飯の用意をしていたから、だいぶ早い時間だった。

 この両方の記憶はいったい何?


 夢?

 違う。。あれは絶対夢なんかじゃなかった。

 じゃぁ、いつ?わからない。

 私の妄想?

 でも4kなんて単語、全く私の中には無かった

 だってあれは確かに現実だったじゃない。。

 わからない。。なんで。。。


「お姉ちゃん。疲れてるのかわからないけど、最近おかしいよ。変な事言うのは止めてよね」


 どうやら茜をすっかり怒らせてしまったようで、これ以上この話をするのは諦めるしかなかった。


 この件で、葵はすっかり自分に対して自信がなくなった。


 もしかして、私の頭がおかしくなってしまったんだろうか。

 精神病院に行ってみようか。。。


 その時、ふと仁の顔が浮かんだ。

 そうだ。病院に行く前に仁に相談してみよう


 仁ならきっと、私の事信じてくれる筈








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