第3話

 その現象は会社だけではなく、家にいる時も表れ始めた。

 葵は、ひとつ年下の妹茜と二人で暮らしている。


 茜の誕生日が近いので、葵はプレゼントを選ぶ事にした。

 贈る物はもう決めている。


 腕時計


 お互い毎年誕生日にはプレゼントしあっているので、その分は毎月の給料から天引きで貯めている。

 だから少しぐらい高くても構わない。


 長く使える時計をプレゼントしてあげたいと思っていた。

 ただ、茜は強度の金属アレルギーなので、デザインよりも、アレルギーに対応している事が重要だ。


 葵は店員さんに相談して、茜が気に入りそうなデザインで金属アレルギーにも対応出来る商品を探し、ようやくこれと言う商品を見つけた。


 茜が喜ぶ様子を想像するとワクワクしてきた


 そうだ!久しぶりにケーキも焼いてお祝いしよう。

 最近全然時間が無くて、料理自体全くしていなかったので、今回は頑張って作って茜をびっくりさせよう。




 その日、葵は朝から頑張って茜の為に腕をふるって、ケーキや料理を作り、テーブル一杯に並べた。


「えー、凄い! これ全部作ったの?時間かかったんじゃない?」

 思った通りの茜の反応だった。


「まぁね。1日かかったけど、久しぶりに作ってみたら楽しかったよ」


「やめてよぉ。お姉ちゃんの誕生日に、同じこと期待されても私出来ないからね」


「そんな事全くおもってないから大丈夫だよ。私だって、毎年なんてやってあげられないし。。

 これが最後かもしれないよ」

 それから用意していたプレゼントを差し出した。


「はい。プレゼント」


「ありがとう。。何かな。。。」


 茜はそう言いながら慎重に包装紙のテープを剥がし始める。

 普段大雑把なのに、こういう時だけは慎重なのが不思議なところだ。


 そして現れた腕時計に思わず顔がほころんだ。


「可愛い。ありがとう。丁度新しいの買おうかなって思ってたんだ。」


「でしょう。そう思って今回は絶対これって決めてたの。これね。金属アレルギーにも対応だから夏の汗をかく時期でも大丈夫よ」


 葵の言葉に、茜は何故かきょとんとしてから、

「そうなんだ。私は今のところアレルギー無いけど、覚えとくね」


 今度は葵がきょとんとする番だった。


「茜。アレルギー治ったの?あんなに酷かったのに?」


「はっ?私元々アレルギーなんて無いけど。。」


「いや、だって、いつもかぶれて真っ赤になってたでしょ?夏は特に酷くて、掻いて血が出たりして、だからアクセサリーとかもあまりつけられないって嘆いてたよね。」


「はっ?なんの話?私一度もアレルギーになった事無いし、今だって普通のピアス付けてるけどかぶれてないよ。誰かと間違えてるんじゃない? 」


 信じられなかった。あれほどひどい金属アレルギーだったのに。。

 間違いなかった筈なのに。。。

 そうじゃないならこの記憶はいったい何?

 茜はもう茜じゃなくなったのだろうか。

 それとも私がおかしくなった?


 混乱の中で、必死に気持ちを立て直そうとしたが無理だった。

 何が起こっているのかはわからないが、何か常識では有り得ない事が起きているのではないか。。


 そしてそれを更に決定付ける出来事がそれからいくらも経たないうちにまた起きるのだった。









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