二日目③ ビラのかき方?

「ははっ、そりゃあ傑作だ!」


事情を説明すると、徹さんは笑い転げた。

「ミケがアイスクリームまみれで帰ってきたときは驚いたが、なるほど、それで君は手伝いに来てくれたってわけか。」

「別に手伝いに来たわけじゃ……。」

「違うのかい?」

「ええと、手伝うといっても……何をすればいいんでしょうか?」


「え、今は特に何もないかなぁ。」


「は?」

「あー、ごめん。怒らないでよ。君にはそれも含めて頼みたいんだ。ミケの人助けの手伝いをしてやってくれないかい?」

「人助け、ですか……?」

ミケが張り切って声を上げる。

「そうなんです! 私、誰かの役に立ちたくて……! お願いします!」


まあ、いいか。たまにはそういうのも。

−−俺はこの不思議な少女を助けてやりたくなっていた。


「……じゃあ、夏休みが終わるまでなら。」


俺はとことん素直じゃないらしい。

「……っ! ありがとうございます!」

ミケは嬉しそうに返事をした。


「じゃあ早速ですが、ビラを配りに行きましょう!」


……は?

「えっと、何の……?」

「これですっ!」

自慢のビラらしく、ミケはまるで大物でも釣ったかのように俺の前に差し出した。


人助けします!

ご依頼は仁科探偵事務所まで!


ほう、シンプルだがまあいいだろう。ミケにしちゃ上出来だ。

「ちょっと貸して」

俺はビラに地図を書き始める。

「ここの住所は?」

徹さんが住所を告げる。

それを書き込んで、俺は考えた。

−−こんなとこまで来る依頼人いるか……?

正直言って、暗いし、じめっぽいし、まあ……雰囲気最悪だ。

俺は黙って自分のメアドを書き込む。


「なんですか? それ……」


こいつ、メアドも知んねえのかよ……。

仕方なく俺はメアドについて教えてやる。


「そうだ。おまえもつくるか?」

「え、私もつくれるんですかっ!?」

俺は、はたと気づく。

「おまえ、携帯持ってる?」

「けいたい……」


徹さんが奥から包みを持ってやって来た。

「はい、これプレゼント」

「え、これって……?」

「携帯だよ、けいたい。もうすぐミケが来て一年だし、なにかしようと思って準備してたんだけどね」

「徹さん……。じゃあ、ユーヤさんのメアドを登録してもいいですか?」

「もちろん」


−−あー、まあ、そうなるよなぁ。便利だし……。

俺は自分の連絡先を眺める。

……女子いねぇ……。


「ユーヤさん! メアド教えてください!」


こうして俺の連絡先にミケの名前が刻まれた。


「よし! 完成だ!」

ミケのメアドも書き加えて、ビラは完成した。

「ああ、ユーヤくん。うちのコピー機、使っていいよ」

「ありがとうございます」

俺もすっかりこの空気に馴染んできたらしい。


「もう12時か。そろそろお昼にしよう」

「お昼ごはんを食べたら、ビラ、配りに行きましょうねっ!」

ミケの声は弾んでいる。


お昼に食べたオムライスは、意外とおいしかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る