第8話

いちかは迷っていた。

はちのからの好意は有難いが…やはりそこは生徒と教師。

卒業して何年も経って成人してから〜とかならまだ分かる(世間が許すかどうかは別だが)が現在進行形で学生と教師は世の中的にアウトだ。

そうじゃなくても俺は彼女と恋仲になる事はないだろう。


準備室に入ったななみは難しい顔をしたいちかがいた。

「何を唸ってるんですか先生。」

「ん?あぁななみか。いや、昨日の手紙をどう断るのがいいかと思ってな…。」

「そんなの『付き合うのは無理。他に当たれ。』って」

「…お前の中での俺はどんな鬼なんだ?」

「鬼じゃないですよ。あいつにはこれくらいで十分という事です。」

「やっぱりお前鬼だな…」

「何言ってるんですか?こんな好青年世の中にそうそう居ませんよ?」

「それを自分で言う時点で相当意地が悪いぞ…」


「先生、それでどう断るんですか?」

「もしかしてそれを聞きに来たのか?」

「俺は毎回手紙を出した相手から答えを貰いに行かされるので。」

「それは…ご愁傷さまです。」

「もう毎回なので慣れました。それで…どうします?俺からはちのに伝えますか?」

「いや…これは俺が貰った手紙だからな。俺が自分自身で返事するさ。だからななみからは今は何も言わないでくれ。」

「わかりました。じゃあはちのには何も言わないでおきますね。」

「ここまで来たのにすまんな。いえ、俺もその言葉が聞けただけ来た甲斐がありました。」

ななみが振り返りながらそう言った。

キョトンとしたいちかがニヤッとした。

「なんだ?あれだけ言っておいて実は…そうなのか?」

いちかが何を言いたかったのかななみは表情でわかった。

「先生…話聞いてました?俺ははちののことはなんとも思ってませんよ。」

そう言いながらななみは出ていった。

難しい顔をしたいちかを残して。


この気持ちは止めなければならない。

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