第208話 お蔵入りにした方法

 私が何度目かの思考放棄をしようとしたとき、ガロンが聞いてきた。


「嬢ちゃんは、どうなったらいいと思うんだ?」

「私?」

「今回は嬢ちゃんも当事者だろ。童話風に言えば、登場人物ってところか。過去のヴェルトの思い出じゃあねぇ。今のヴェルトの思い出に、嬢ちゃんは関わっている」


 口を出す権利は、あるんじゃねぇか? ガロンは諭すような口調でそう言った。


「私は……」


 悩むかな、と思ったけれど、答えはすぐに出て来た。


「ヴェルトとモニカが仲良く暮らしてほしい」

「そこに私も混ぜてほしい、と」

「ブツよ!」

「冗だ……いでっ!」


 この能天気な変態親父は、こんな時ですら差し込んでくるから油断がならない。

 思いのほか強くなってしまった拳を労わって、気を取り直すように、大きく息を吸い込んだ。

 うん。口に出すとすっきりした。

 私は、ヴェルトとモニカに仲良くしていてほしい。それが一番純粋な私の気持ちだ。


「村を守るためとか、童話の国の為とか、しがらみがいっぱいくっついて来ちゃったけれど、そんなのない方がいいよ! 村を救う旅をして、無事に暖かい家族の元へ帰って来れました、めでたしめでたし。これが最高のハッピーエンドだもん」

「童話狂いで、童話のために人生を捧げた嬢ちゃんが、そんなこと言うたぁなぁ」

「言葉、選んでね?」


 狂ってないし、人生の優先度の一番上に童話を据えているだけのただの王女だ。


「そこまで思ってるなら、手をこまねいているわけにはいかないよな!? 嬢ちゃんにしかできない何かがきっとあると、俺様の生前来の勘が囁いてるぜ」

「なんだか、言い方が胡散臭いんだけど……。本音は?」

「もっとかき混ぜた方が面白いだろ?」

「やっぱり……。でも、私にしかできないことなんて、あるかなぁ」


 ヴェルトとずっと旅をしてきたから? それとも、私が王女だから?

 権力を振りかざして、黙らせることは、できなくはないのかもしれないけれど……。レベッカもギールもお父様の配下だし、ヴェルトの責務を言い渡したのはお父様だ。我儘を言うことはできるけれど、その我儘が通る保証はどこにもない。私はやっぱり、なんちゃって王女だ……。

 なんちゃって……?


「ねぇ、ガロン」

「なんだ?」

「さっき私さ、嘘は良くないって言ったけど。本当にそうかな?」

「俺様はそうは思わねぇぜ? 生きている以上、すべて真実でできた人間なんていねぇ。それこそ嘘つきだ。自覚して使いこなしている奴が、人生を有意義に生きているる奴だと俺様は思うぜ。ま、だからと言って、ヴェルトの奴を肯定するわけじゃないけどな」

「私も、嘘吐いてみようかな?」

「はぁ? 宣言をしてから嘘を吐く奴がどこにいるってんだよ?」


 私は頭の中で思いついた考えを組み立てた。

 ヴェルトも、モニカも悲しませずに、童話の国の顔も立てる、私にしかできない方法……。

 ……あるには、ある。

 私がうんと頑張って、辛い思いをしても平気な顔をして、頑張って頑張って頑張れば、きっと、すべてを丸く収めることができる。

 その覚悟が、私にあれば……。


「やっぱ駄目だぁ」


 枕を明後日の方角に投げ捨てて突っ伏した。シャツが捲れておへそが見えてしまっているけれど、口うるさいヴェルトはいないし、気にならない。

そんなことより、シミュレーションしてみた結果が、あまりに無謀過ぎて、自分の策ながらげんなりしてしまった。


「お? なんだ、その顔は? 面白い……じゃねぇ、二人を救う方法を思いついたのか? 俺様にも教えてみろよ。協力してやるぜ?」

「嫌。私が耐えられないもん。この方法はお蔵入り」

「えぇ……。そりゃないぜ。身体のない俺様の唯一の楽しみなんだよぉ。生殺しとか、酷いぜ嬢ちゃん」

「言わないものは言わないの」


 やっぱり、二人が話し合って解決するべきだ。

 私は、思いついた妙案を、心の奥深くにしまうことにした。

 雨はまだ、止みそうにないけれど……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る