EE〜革命の風〜
Nicolas kazuhoi
第一話「凍てつく道具たち」
朝の凍った霧が、道具たちの頰をかすめる。そうして、道具たちは活動を始める。
私はニッコ、その道具たちの中の一つである。
いつものように道具たちは夢から覚める。
体が痛い。
湿ったコンクリートの上で寝かせられているのだから当たり前だ、今に始まった事ではない。
道具たちは次々と起き上がりルームAへ走っていく。しかし、私の横で寝ていた道具は一向に起き上がらない。
私はなんとなく察しがついていたが、一応その道具の肩を揺らし、起こそうとする。
しかし、その道具の顔は青白く、氷のように冷たかった。
「おい、そいつはもう起きねえよ」
そう言ったのは私と同い年のヨセフである。
「点呼に間に合わないと、しばかれるぞ」
私たち道具は、ひょんな事ですぐコテンパンに殴られる。そんなのはごめんだ。
私は、凍てついた道具と自分を天秤にかけた。
......不毛か。
私とヨセフは凍てついた道具を尻目に走り去った。
人とは、つくづく利己的な生き物だと思い知らされる。
監視官が来る前にルームAに着かなければならない。
全速力でルームAへ向かう。
危なかった。
ギリギリ監視員が来る前に到着することができた。
ガチャン
監視員のおでましだ。
監視官が入ってきた瞬間ルームAは煙草の臭いで充満した。監視官は片手に「the match」を持っている。
「the match」というのは大手薬品メーカーの「SODA」が開発した、嗜好品である。
労働者はこんなにも死にものぐるいで働いているというのに、監視官はお気楽なものだ。
監視員は、道具たちをさも汚物のように蔑んだ目で見下す。
まったくこいつは、私たちを道具のように扱ってよくもまあそんな平然といられるものだ。もはや狂人である。
点呼が始まった。順々に名前が呼ばれる。
今日は3人死んだようだ。
すると監視員は貧乏ゆすりをしながら道具たちへの文句を言った。
「3人も死んだのか、まったくここには腰抜けしかいねえのか。使えない。おい、ヨセフとニッコ、死体運んでけ」
「はい!」
舐めてる返事と思われると殴られるので素直に返事をする。
ヨセフと私は凍った死体をルームCへ運んだ。ルームCは外へつながる滑り台のようなものがあり、そこに死体を置いて外へ捨てる。
「相変わらずこの国の寒期は凄まじいな」
ヨセフは冗談めかしく笑いながら言った。
「あぁ、油断すると殺されるからな」
この国は寒期が来ると外気が-30度にまでになる。そして私たちが「労働者」という名の「道具」として使用されているこの工場では、暖房器具などがろくにつけられていないため、外気とほぼ同じ温度で労働させられるのだ。もちろん、そんな環境で「道具」という名の「人間」である私たちは無事であるはずがない。毎日のように、夢から覚めない道具たちが現れるのもしょうがないのである。
私たちは全て死体の処理が終わり、ルームAへと戻る。
死体を見ると、自分もこんな風に凍って死ぬのかという、なんとも言えない気怠るさと悲しみを感じる。
この国では、「BABY WORKER制度」と呼ばれる強制的に一部の少年少女が労働させられるという制度がある。ヨセフは最近入ってきたが、私は16の時にこの工場に入れられた。8年くらい働いてきたがもう私もそろそろ死ぬのかもしれないな。
ルームAに着き、私たちの仕事が始まる。その内容はいたって簡単である。輸出用の薬品を作る機械を、ただ椅子に座って監視するというものである。簡単ではあるが楽とは言っていない。-30度の外気と同じ気温の室内で、そして長時間椅子に座らせられる。それによって何が起こるか、当然気づくだろう。
「寒い!指先が痛えよ!」
ヨセフは半泣きで悶えていた。
「こりゃ拷問だな」
「冗談言ってる場合じゃねえよ、ニッコ」
いや、冗談ではない。本当に拷問だ。今にも指が引きちぎれそうだ。引きちぎれたほうが マシなのかもしれない。
寒さで意識が遠のく、しかし必死に機械を凝視する。
この工場の機械は古く、よく止まる。それを 私たちがその機械を修理する。まぁ修理するといっても、毎回同じようなことで止まるため、やることはほぼ同じである。しかしその止まった機械を放置すると、流れてきた製品が詰まる。そしてそれが監視員にバレると、死ぬほど殴られる。いや、それで本当に死んだやつもいたか。とにかく、どれほど寒さで意識が朦朧としていようとも気が抜けない。ある意味、肉体労働よりも辛いかもしれない。
どうして私たちはこんな苦行を強いられなければないんだ。私たちは、何も悪いことはしていないはずだ。
私は、この工場に入れられる前は父と二人で暮らしていた。
この国では自国の政治思想などを否定する書物は禁止されている。しかし、私の父は歴史学者だったため、小さい頃よく父に歴史のことを聞かされた。
過去の世界は、差別も戦争も格差も無い、理想郷であったと父は言っていた。本当の事かどうかはわからない。
しかし、私たちの住むこの世界がおかしいということは断言できる。
罪もない、か弱い私たちがなぜ、道具にならなければならないのだ 。
そして、こんな散々こき使われ消耗される私たちの命とはいったい何なのだ。
ビビビビビ!!!
工場中に響き渡る轟音で、私は目を覚ました。
しまった......
この轟音は、薬品が詰まった時の音である。監視役員が来る。あぁ、殴られるのか......監視 役員の虫のいどころ次第か。
コツ コツ コツ コツ
監視役員の足音だ。背筋が凍る。そして次第にその足音は大きくなる。
「おい」
「......」
監視役員が、背後から私を呼んだが、緊張のあまり声が出せなかった。
「おい、聞いてんのか」
「......」
「聞こえてんのなら返事しろ!」
ドゴッ
鈍い音と共に背中に激痛が走った。どうやら背中を蹴られたらしい。
ドンッ
私は反動で床に倒れた。今度は顔を蹴られた、意識が飛びそうだった。
次に監視役員は私の胸ぐらを掴んだ。
「お前のせいで効率落ちるだろうが!誰のおかげで毎日食っていけると思ってんだ!」
監視役員の怒号で鼓膜破れそうだった。監視役員が私を離すと、私はへなへなとしゃがみこんだ。
「お前、危なかったな」
ヨセフは、詰まった薬品を回収しながら言った。
まだよかった方である。もし監視役員の機嫌がもう少し悪かったら、私の体はもたなかったと思う。しかし、顔を蹴られた時、歯が何本か抜けてしまった。
最悪だ。
容姿が悪くなるということではない。私が心配しているのは、この工場の中で1位2位を争う恐ろしいもの、感染病である。この工場は非常に不衛生で、感染病は私たち道具が死ぬ原因の一つである。もちろん医者などはいない。感染病に罹った者は、自然治癒を祈ることしかできない。
私は自分の着ている服の一部を破り、歯が抜けた場所に詰めた。そして感染しないことを祈った。
しかし私は、何か違和感を感じた。
どうせ感染病にならなくても、私はどのみちこの工場で散々こき使われ死ぬのだ。
生きることに何の意味があるのだ。
ただ、辛いだけだ。
「もういっそのこと」
そう言った時、ヨセフが私の手を握った。
その表情には強い怒りが表れていた。
「お前はここで死ぬようなやつではない!」
「なぜそう思うんだ」
「お前はな、何か俺たちには持ってない物を持ってる。それは目に見えるものとかではないけど、でもこの世界で最も価値のあるものだと思う。だから死ぬなよ!死んだら許さないからな!もうじき迎えが来る、それまで死なせるものか」
「なんだそりゃ」と思ったが、あまりにもヨセフが熱く語るので、素直に頷いた。しかし、急にどうしたんだろうか?気でも狂ったか。まぁ、こんなところにいたらそうなるか。
しかし、迎えとはなんだ?
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〜国際情勢〜
1880y BABY WOKER制度 実施
1913y ニッコ-ベルタルク誕生
EE〜革命の風〜 Nicolas kazuhoi @0155
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