第十八話 白い暗闇

 


 翌日琉玖から通学路で言われた言葉は「再発」の一言だった。

 秋。風が吹くと肌寒さを感じてきて、冬の到来を告げる秋。

 前回は一年とちょっとの入院だった。今度はどうなるんだろう。俺たちに情報を知らせてくれるのか分からない。俺たちはこの年齢になってもまだ「子供」だから。

 遠い。ぎゅっと拳を握り締める。

 俺たちはまた、暗闇の中で希望を探すことに決めたんだ。


 学校が終わるとすぐに病院に見舞いに行く。

 琉玖はまだ文化祭の後片付けが残っていてそれが終わったらすぐに駆けつけると言っていた。

 またも病室は九階だった。受付を済ませて央雅の病室へと急いだ。

 今回は個室のようで、扉を開けると央雅が病室のベッドで起き上がり外を眺めているようである。

 俺はかける言葉を失った。

 なんて言うべきだろう。きっと今回も治るよ、なんて軽々しく口に出来ない。

 それでも、治るに決っている、と同時に俺は思った。

 外は何が見えるのだろう。

 真っ白な天井、真っ白な壁、真っ白なベッドに、真っ白な扉。白い病室の外。

 そこは庭園のように木々が生い茂り、車椅子を押されている人もいれば走り回る子供もいる。

 談笑しているスタッフや入院患者の家族だろうか、様々な人の一コマがあった。

 俺はゆっくりと央雅の顔に目を向ける。

 央雅の表情には笑みもなかった。

 ただ、悔しそうに唇を噛んでいる。

「央雅」

 俺はゆっくりと央雅に近づく。

 ポロポロと央雅の瞳から涙が溢れた。

「大人しくしてたのに、安静にしていたのに、どうして僕なの?こんなに年数経ったら大丈夫なんだってお医者さんが言ってた。再発の恐れはほとんどありません、って。なのに、どうして、僕なの。ねぇ、なんで?再発して治らなかったら、僕恩返しも何も出来ないよ……こんなことってある?僕が何をしたの?ずっとずっと我慢してきたのに、僕はただお母さんと兄ちゃんと幸せに暮らしていたかっただけなのに、なのになんで?なんでなの、ねえ、兄ちゃん!」

 涙でぐちゃぐちゃになった顔で悲痛な声を上げる央雅を、俺はただ抱きしめることしか出来ずにいる。

 央雅が笑って和ませてくれている日々も、普通の子と同じように暮らすことの出来ない日々も、家の複雑な事情も全て飲み込んで生きてきた、まだ小学生の男の子。

 病院以外の日々はずっと側にいた。だからこそ、もっと報われて欲しいと思っていて、それまではそばから離れないと決めたのに。

「央雅」

 俺はただ央雅の声を聞くことしか出来なかった。

「イヤだよ、僕もっと生きたいよ——」

 何も言えない、役に立てない、俺は一体何が出来るんだろう。

 俺も央雅と共に、真っ暗闇に放り込まれたようだった。


     ◆


 

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