第七話 必然の未来

 

 

 学校が終わると僕らは学生服のまま100円ショップへと走る。

 お小遣いならそんなに使っていないから普通に買い揃えることは簡単だった。僕達は央雅が病気になってからなるべくならお金を使わずに済む方法を考えることの方が増えている。

 琉玖自体にはお小遣いすらあるのかはあまりわからない。琉玖の家は僕にとって全然わからないけど僕はそうしている。絵本を作るのだって琉玖の得意な水彩画に合わせて紙にはこだわった。僕のために使う事をなるべく減らしている。

 僕が何か欲しい、と思うことは今は減ってしまった。

 だって僕達と会えない間の央雅を思うと、貯めておけばいつかはこのお金が何か役に立つのではないか、と思って使う事が出来ないでいる。

 治療費が高くて家にいる時間が減ってしまった琉玖のお母さんのことを思うと、僕達の、無力ながらも何か出来ることを探して、それで辿り着いた一つの答え。もしかしたら、これっぽっちって思われるかもしれない。

 でも、今僕に出来ることの一つだ。それが少しでも役に立つように、大切にしなくちゃいけない。

 ライトの候補は懐中電灯だとサイズが違うし、と100円ショップは諦めて電気屋さんで探すことにした。

 そこにはLED式の小さいサイズのランタンと書かれていて、ランタンの形というよりは本当に小さな照明器具のようにも見えたけれど、これなら明るさもバッチリあって値段も500円と思ったより安くて買える。僕はこれにしよう、と琉玖に言って購入した。

 こうして材料を整えた僕はマンションのエレベーターホールで何階を押そうか悩む。琉玖がすっと手を伸ばして「7」を押した。

「母さん、もうこの時間にはいないから。大丈夫だよ」

 十六時に学校が終わって買い出しをして今は十七時くらいだろうか。そうか、この時間も働いてるんだ、と僕は琉玖のことを思うと心がぎゅっと苦しくなった。

 ずっと側で笑ってはしゃいでいた弟はいない、お父さんもいない、お母さんは弟の為に働く時間を増やしてほとんどいない。

 央雅も病気で苦しんでいる。だから僕達も乗り越えてほしくて色々工夫してる。

 でも、と僕は思う。

 そうしたら、琉玖は?

 家で一人きり。僕は家に帰ればお母さんが夕食を作るか、適当に置いてあるお小遣いからコンビニ走ってご飯を食べるけれど、お風呂の準備だったり基本的な家事はお母さんがやっている。

 でも、琉玖はどうしているんだろう。

 僕はその境界線を越えられない。

 僕は琉玖が度々唇を噛んで、感情を押し殺しているところを何度か見ている。

 それなのにそこに触れちゃいけないような気がして、触れたら関係も何もかも壊れてしまいそうで、僕はその一歩を踏み出せない。

 大人だったら違うのかもしれないけれど、僕はこういう場合どうしたら良いのか解らない。

 解らないまま境界線を越えて、琉玖を傷つけてしまうことが怖い。

 一人で頑張ってるのに。

 僕はただ無力な子供のままで、気づけば僕も唇を噛んでいる。悔しい。

 悔しいよ、琉玖。

 僕達はいつまで見えない答えを、探しているんだろう。

 ピンポンと七階に辿り着く音が聞こえる。

 迷わず二人で「701」号室に入っていって買ってきたものを広げる。

「とりあえず、一寸の狂いもない設計が大事だ」

 琉玖の言葉に僕は頷く。一つ狂うだけで全てが壊れてしまう。

 だから厚紙とアルミシートは一角ごとに担当することに決めて、ここら辺は何座にする?とかたくさん話し合った。

 出来上がったプラネタリウムは、琉玖のお母さんによって央雅の手に渡ったらしい。

 そして数ヶ月後に面会可能期間になって、そこで満面の笑みを浮かべた坊主頭の央雅と久しぶりの再会を果たす。

「ぼくね、おにーちゃんが作ってくれたプラネタリウム見てたらぐっすり眠れるようになったんだよ」

 懐かしい表情。そして会えない間に成長している央雅に感動しながら近づく。

「もう少ししたら退院できるんだって。おにーちゃんはぼくと遊んでくれる?」

 遠慮がちな央雅に「もちろん」と僕達は二人で返す。

 退院できる。

 病気は治ったんだ!僕達の思いが届いたんだと、その時は全力で喜んだ。


     ◆

 

 

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