2. 彼の存在


パリっとしたチェック柄の可愛らしい制服に身を包み、期待と希望いっぱいの中学生活が始まった。


友達作り、厳しい先生達、校則、小学校ではなかった数学、英語...

乗り遅れないようにしがみついていた。


入学したての頃は、中学生活という未知の世界に慣れるのに必死で訳も分からぬまま過ぎて行った。


出だしはまずまずといったところ。

クラスに溶け込むこともできたし、be動詞、受動態とか方程式、関数やらも何とか無事にクリア。

とりあえず第一関門は越えたみたい。


最初はみんな大人しくて、先生の言うことをきちんと聞いていい子だったし、目立ちたがり屋もおらず丸く収まっていて、これと言って問題はなかった。


無事に1年目を終えた時には、

心底ほっとした。



そして中2。


一般的に中だるみして一番荒れると言われる時期。


友達もできて、数学や英語にも、厳しい先生たちにも何とか慣れ、上手く波に乗れたことだし、これでひとまず安心。余裕を持って第2ステージへ進んだ。


新しいクラス、新しいクラスメート、一段と厳しい先生たち…

中1のときと同じように何事もなく過ぎてゆくだろうと、それほど不安もなかった。


最初のうちは良かった。だけど、2年生になってから勉強も難しくなり始めたし、人間関係も複雑になってぎくしゃくし始め、先生も厳しくなった。

放課後、7時近くまで居残りなんてこともざら。


いつも機嫌が悪い数学の先生、

いつもピリピリした国語の先生、

サメのような冷たい目をしていて、あまり人間味がない担任兼英語の先生、ナルシストで目立ちたがり屋な男子、個性を抑えきれず、はみ出してしまっている子…


そんな鬱陶しく不穏な空気が漂い始めた学校生活の中で私の慰めになったのが、堅苦しさなど微塵も感じられない気さくで友好的な佐伯だった。


髪を染めているワケでもピアスをしているワケでもないけど、腰パンしてみたり、やる気なさそうに足を投げ出して座ってみたり、いつも授業が終わるとすぐにフラフラとどこかへ行ってしまって、授業以外の時間はほとんど教室にいない奔放な彼。彼も、この学校ではみだし者の1人。


「佐伯くん、ちゃんとまっすぐイスに座りなさい」


「佐伯、何だそのだらしないカッコウは?ちゃんとせんか!!!」


廊下の端から端まで轟くような怒鳴り声。

シーンとした教室に響く不協和音。


また先生に怒られてる...

先生たちに目をつけられていて、彼の上に雷が落ちるのも珍しいことではない。本人は気にしてる様子なし。


授業中にうろうろしたり、地べたに座ったりしないだけマシだと思うけど。授業中にはちゃんと教室で席についてるし。


はみだし者や目立ちたがりやが出て来たとはいえ、周りは真面目っ子ばかり。

佐伯のような生徒は浮いて目立つ。

優等生タイプからは白い目で見られ、煙たがられてる。


私が彼を知ったのも、気になるようになったのも、彼が浮いていて異質な存在だから。1学期の中盤まで名前すら知らなかった。


優等生でもない、かと言って落ちこぼれでもはみだし者でもないどっちつかずの私は、彼を煙たいと思ったことはなかった。

ていうか、何とも思ってなかった。

強いて言うなら、正直変なヤツだとは思ってたけど…

私にとって、単なるクラスメートの1人でしかなかった。

最初は。

そう、最初は、ね。

いつからだっただろう、彼に親近感を覚えるようになったのは?

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