第22話 老執事と騎士と殿下と政務官

オーゲンとともに屋敷に続く

一本道を歩くフィルと哲人

無駄に豪華で広い庭も大きすぎる門も

大きすぎる扉も元どおりだった


「すごいな ほんとに全部元通りだ」


「で 僕はこんなところに入っても良かったんですかね?黒鉄さん・・・ フィルメニア殿下」


「よいよい わらわが良いといったのじゃ

オーゲンといったか?」


「はい! オーゲン スミスです」


「うむ 哲人が世話になったな」


「いえいえ 魔石の買取はしていただけるのでしょうか?」


「無論 買わせていただく まぁ今夜くらいはゆっくりしていくといいのじゃ」


「ありがとうございます!」


「ふふっ」


この時フィルが妙に悪い顔をしているのを気づいていたのは哲人だけだった


・・・


屋敷の扉を開けると早くも誕生日会の準備は進んでいた

玄関を抜けた広間は飾り付けられている

今まさに飾り付けている老人が一人いた

三人のうちの新たなる顔ぶれに視線を向け


「む? 帰られましたか お嬢様 哲人殿

そちらの御仁は」


「うむ この軟弱なやつは・・・お主何者じゃ?」


「オーゲンですよ! 殿下!」


「そうじゃ そうじゃ オーケスなのじゃ

此度の襲撃の功労者なのじゃ

なんでも魔石を買い取って欲しいらしい」


「オーゲンですっ! わざとですよね殿下」


「申し訳ない 噛んだのじゃ」


「絶対 わざとですよね!」


「噛みだのじゃ」


「わざとじゃない?!?!

黒鉄さんからも殿下になにか言って・・・

なんで泣いてるんです?」


「いや 異世界でこのやりとりが見られるなんて 」


「なんか よくわかりませんが

怪しいものではないですよ!」


「まぁ 大丈夫だ オーゲン アルフさんもわかってくれるさ わかってくれなかったら・・・

うん まぁ頑張れ・・・」


「なんなんですか! 僕はどうなるですか!」


「それは そうとアルフさんその格好は」


この老執事は基本的にはいつもの格好なのだ

高い背に鍛え上げれた体 黒い執事服

・・・の上からピンクのエプロンを

歴戦の白髪の上に

・・・ピンクのパーティ帽を被っている

文字はわからないがhappy Barth day

的なことが書いてあるのだろう

なんとも形容しがたい格好だ


「それはそうとお嬢様 見つけたのですね

守護騎士パートナーを」


「ああ ついにな」


「おめでとうございます フィルメニア殿下」


さっきまでのおちゃらけた雰囲気ではない

アルフさんはおそらく目を見ただけで分かったのだろう 俺とフィルが主従になったことを

アルフさんとフィルは俺よりずっと長い付き合いだ

アルフさんは俺の側まできて 肩に手を置き


「哲人殿」


「はい」


「殿下をお願いします」


「全身全霊でこの身にかえても」


アルフさんは笑顔を浮かべ満足そうに頷く

その笑顔の中には愛娘が育ったうれしさ

黒い瞳の奥は自分から離れていく寂しさも宿っていた

お嬢様から殿下に敬称を変えたのもそのせいだろう

なんとも感動的な場面だからこそだろう

・・・できればエプロンとパーティ帽は取って欲しかった


・・・


アルフへの報告が終わり哲人は誕生日会の進捗状況を聞いていた


「で 準備はどのくらい進んでるんですか?」


「もうほとんど万全です

食材も届いていますし」


「それ 予め手配してたんですか?」


「はい クズノハもまだ帰ってきませんよ」


「なんでわかるんですか?」


「市場の商人たちに予め事情を伝えておきました 夕日の刻までクズノハを止まらせておくようとも伝えました」


「・・・準備万端ですね」


「抜かりはありません」


なんかすごい気合いが入っている

クズノハには厳しいらしいが愛ゆえだろうな

・・・それにより大樹界に送られたと思うと複雑だが


「では アルフあとは任せるのじゃ

オーゲン 客間に案内しよう 魔石の値段を交渉するのじゃ」


「フィル 俺は」


「・・・哲人はわらわのなんじゃ?」


守護騎士パートナーだね」


「なら ついてくるのじゃ」


かくして交渉は始まった

その時帝国の政務官しか見れない重要資料をうっかりフィルが手を滑らせオーゲンがみてしまい

これはもう政務官にならなければ投獄される

ので

オーゲンが皇帝選におけるフィルメニアの陣営の政務官に任命されたが

特に気にしない・・・

強く生きろ オーゲン


・・・


そうして時刻は夕刻

屋敷の前で待っていると

今日の主役が走ってきた

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る