第21話 君の名は?
クズノハは街を歩いていた
街全体から火の手が上がったのに消火自体は極めてスムーズに行われた
これも帝国軍が早急に介入してくれたおかげそれもまた哲人の功績だ
だからこそ襲撃から四日で街のほとんどが正常に機能している
邪龍神教の襲撃で滅んだ街もあるのに
哲人はどれだけそれをわかっているのか
「とはいえ すごい量のおつかい お兄ちゃんが起きてお嬢様の元気が戻ったからって張り切りすぎじゃない アルフさん」
歩きながらお使いのメモをみて溜息をつく
珍しく 時間はいくらかかっても構わないと言われている
「まぁ いくら遅くなってもいいとはいえ
早く帰らなくちゃ」
頭にお兄ちゃんとお姉ちゃんが楽しそうに笑いあっている姿が脳裏をよぎった
嬉しい光景だ 少なくともメイドとしては
「いやいや こんなことを考えてる場合じゃない」
頭を振って市場を目指すクズノハ
哲人の隣で笑いあっているのがフィルではなく自分に切り替わったことはあえて無視した
・・・
一人のケモミミのメイド少女が走っている
「はぁっ はぁっ なんでこんなに時間かかったの〜」
時刻は夕暮れ
太陽はなオレンジ色で城塞都市の所以たる城壁に隠れようとしている
黒い城壁とオレンジの太陽のコントラスト
綺麗な光景なのだが 残念ながらそれを眺めている余裕は今のクズノハにはない
「なんで 今日に限ってこんなに話しかけられるの!」
市場に行くといろんな人に話しかけられたのだ いつもは挨拶程度で済ませる人も今日はたくさん話しかけてきた
それ自体は嬉しいことなのだが・・・
「流石にアルフさんに怒られちゃうよ」
今手に持っているものは意外と少ないのは
市場の方々の厚意で屋敷まで運んでくれたからだ
屋敷は燃えおちたのでは?
三日で元どおりになっていた
さすがは皇女が住まう館
「ここを曲がれば すぐに屋敷」
この通りを曲がると門が見える
門の前に誰か立っている?
「え? お兄ちゃん?」
「あっ クズノハちゃん 遅かったね」
「・・・お嬢様とはどう?」
「それは後でね さっ 急ごうか
みんな待ってるよ」
「はいっ」
そのまま門を通り抜ける
庭も門もいつもどおりだ
四日前 破壊されたとは思えないほどに
見飽きるほどみた明らかに大きい扉を開き
「すいませんっ 遅くなりましたっ」
同時に謝罪
返ってきたのは怒声・・・
「「「「お誕生日 おめでとう!クズノハ」」」」
ではなくクズノハという少女の誕生を祝う
言葉
「・・・へ?」
クズノハ自身がこの状況を一番理解できなかった
・・・
時刻を遡ること3時間前
ブルースターたちが見守るなか
主従の誓いを立てた二人
「ふふっ 耳を貸せ哲人」
そこでフィルから聞いた内容は
「誕生日会?」
それは元の世界においては至って当たり前の習慣 この世界にもあるのか
「その通りなのじゃ! なんでも初代皇帝が始めたらしい というわけでクズノハの誕生を祝おうではないか」
「そうだね フィル」
こうして新しき主従の初めてのミッションは妹分の誕生日会の成功となった
・・・
「屋敷がもう戻ってる・・・」
異世界にきてから散々驚かされたが
この光景はなかでもベスト3には入っているだろう
「流石はヴォーバン中将麾下の工兵部隊
仕事が早いのじゃ」
「これ 軍にやらせたの?」
「む? いやいや 流石にわらわから言ったわけではないぞ なんでもレティシアの厚意かららしい」
「レティシアさんからの・・・」
脳裏によぎるのは紅い少女
炎の中から出てきたような純粋な紅い髪に眼
それに喧嘩をうるような白い肌
しかしそれらは喧嘩することなくレティシアという少女の魅力を引き立てている
そうえば 大きなかったなぁ
なにがとは言わないが
「哲人 なにか妙なことでも想像しているのではないか?」
「いえいえ そんなことはないですよ」
フィルがジト目でこちらを睨むので慌てて思考を切り替える
「レティシアは大きいからの」
「そうだね 女性にしては身長が大きいね
てゆうか 知り合い?」
「ああ ちょっとな」
フィルが少し言葉を濁した
聞かれたくないのだろう
「早く屋敷に入って準備をするのじゃ
アルフの協力も得てる「あっ 黒鉄さんっ!
ようやく見つけましたよ」・・・誰じゃあやつは」
後ろから叫ぶように声をかけられる
振り返ってみれば久々にみる顔だっだ
相も変わらず幸薄そうな顔をしている
そう彼はここまで送ってくれた行商人だ
名は・・・そう名は
「君の名は?」
「オーゲンですよっ!黒鉄さん!」
おっと間違えて有名映画のタイトルが出てしまった それにいいツッコミじゃないか
「あっ! そうだ! やばい凄く綺麗に忘れてたわ 許せ」
「何ですか!その言い方は!てことは交渉のことも」
「それは今からフィルに掛け合ってみる
なんせついさっき起きたばっかでな
すまん」
「ということは 今哲人さんの隣にいる方が」
「ああ フィルメニア フォン リードルフ
第二皇女殿下だ 頭が高いぞ!オーゲン!」
「それは殿下のセリフなのでは!
しかし噂とは当てならないですね」
「だろ!めっちゃ可愛いだろ!
俺の主人 めっちゃ可愛いだろ!」
「ああ いえ そうではなく奴隷商狩りの皇女で有名なのでもうちょっと逞しい方なのかと」
奴隷商狩りの皇女?
ふとフィルを見てみると
耳を真っ赤にして手で顔を覆い隠している
「とりあえず屋敷に入ろうか」
そんなこんなで誕生日会準備は幕を開ける
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます