第二章 皇帝選

第16話 尾ひれと背ビレ

哲人にとって、目覚めとはつらいものだ 夢の国から無理やり現実に引き戻される感覚 すっきりとした目覚めを経験したのはもうずっと小さいころだ

重い瞼を開ければ目に飛びこんでくるのは光に反射した知らない天井だ

寝起きが悪い哲人は思いっきりあくびをすることで意識を覚醒させる

眼をこすり現状確認に入る


「んん?・・・どこだ ここ?」


えーと確か異世界に来て大樹界に飛ばされてまた戻ってきて

怠惰のやつを倒して・・・そのあと気絶して


「俺 凄まじく濃い二日間を過ごしたなぁ」


我ながらそう思う ということは今日が異世界生活3日目か

窓を開ければ外は明るくなっており街は活気に満ち溢れている

風は若干冷たいが


「あれでも ここあの屋敷じゃないな」


部屋のつくりもベットの感触も枕の固さも全然違う

はてと記憶を漁り


「あー そうえば 焼け落ちたんだっけ」


結構悲惨な事実を割とあっさり口にする

まぁでもフィルは皇女だしお金は入ってくるかな・・・

となるとその思考はドアノブがひねられる音によってさえぎられる


「哲人! 起きたか!」


ドアから顔を見せるのは翼無き竜人少女フィルメニア フォン リードルフ第二皇女殿下だ

その顔はいつもどおりの太陽の笑みを浮かべている

ああ そうだよ 俺はこの顔のために頑張ったんだから


「哲人 大丈夫か? ずいぶん長い間寝ていたのじゃ」


「長い間? えっ おれ寝てたの一日じゃないの?」


「いいや 四日は寝ていたのじゃ」


「四日? え まじで」


「まじ?」


「本当って意味」


「マジなのじゃ」


「マジか」


「では 哲人 改めて言いたいことがあるのじゃ」


フィルメニアは背筋をピンと伸ばし両手を胸の前に置く

ものすごく真剣な目で


「哲人 まずは感謝を そなたの功績によってわらわを含め 屋敷のものひいてはこの街のたくさんの命が救われたのじゃ 帝国の皇女してもわらわ一個人としても感謝するのじゃ この通りじゃ」


頭を下げた 一国家の皇族が一皇族として頭を下げる

それはとても重たいことだ


「そして わらわは哲人に礼をしたい 幸いなことにわらわは皇女 ある一定のことは融通が利く それに哲人の噂は帝都ににも響いているのじゃ あるいは帝国からも何かがあるかもしれないのじゃ さぁ なんでも申すがよい

このフィルメニア フォン リードルフがそれに報いるのじゃ!」


渾身のドヤ顔 

望みか・・・ 望み 望み

己に反復して問いかける 今自分が最も欲しいものか・・・

あっ いやでもこれはさすがに


「なんでもいいの?」


「無論! 遠慮は無用なのじゃ さあっ!」


「じゃあ 公の立場としてフィルといるためにはどうしたらいいの?」


「へ? わらわと一緒にいる立場?・・・」


途端にフィルのテンションは暗くなり俯いて・・・


「哲人 それはあまりにも・・・その わらわがいうのは変じゃが・・・その」


申し訳なさそうに・・・

この反応は無理そうだな


「欲がなさすぎなのじゃ てゆうか それはその・・・ よいのか?」


「いいってゆうか おれが言い出したことだし・・・なれるかな」


「わらわの騎士ナイト守護騎士パートナーになりたいといことか?」


「うん」


フィルはしばらく口に手をあて考える 


「・・・なれる が・・・ なぜなのじゃ? なぜわらわの守護騎士パートナーに」


「それは・・・フィルが」


ここで口が止まった 二の句が継げない 口からは声が出ず

頭に残るのは疑問だけだ なんでだろうか なんで この子の騎士に・・・


「とてもついていきたくなる人だからかな?」


「・・・ヘタレなのじゃ 哲人ヘタレ ヘタレ哲人なのじゃ」


「えっ ヘタレって」


いきなりヘタレ連発発言


「そこはこういうべきなのじゃ ゴホンっ おれは「フィルメニアお嬢様 哲人殿帝都 宰相府より使者がきております」・・・邪魔がはいった 哲人もくるのじゃ」


アルフさんの声がドア越しに聞こえてきた


「え おれ寝間着だけど 」


「よいのじゃ おそらく哲人は戸惑うと思うが」


・・・


フィルに言われるがまま寝間着に恰好で一階に下りると

そこは応接室のようになっており紅いソファーが二つ 机を挟んでおいてある

片方にはアルフさんがその対面には使者?が座っている


「おお これが噂に聞く 蒼眼の英雄 怠惰を葬ったという 最も新しき英雄 

黒鉄哲人殿ですか? その寝間着姿もしかして 今お目覚めとか・・・」


「ああ 目覚めたのは今なのじゃ それゆえにこのような格好で応対する」


「すいません そのこんな格好で」


「いえいえ 怠惰との激闘は吾輩も聞き及んでおります 故」


怠惰との激闘ね いやまていくらなんでもはやすぎないか

怠惰をぶっ殺したのは四日前だ 


「それは 誰がいってるですか?」


「剣神レティシア殿がそう言って回っております」


あの人か・・・正確には怠惰をころしたのはレティシアさんなのだがそれはどう伝わっているのだろうか


「いやでも ころしたのはレティシアさんですが」


「吾輩もそのように伺いました なんでも蒼眼の力で怠惰の動きを止めその隙に怠惰を撃った 街の損害が少なかったもの事前にこの情報を帝国軍に伝え応援を請うたため 哲人殿の功績と すなわち怠惰の思惑はすべてあなたの手のひらだったと

いやぁ 知略も凄まじいですな最も新しき英雄は」


うん? なんか 尾ひれ背びれついてない?

怠惰の思惑はすべて手のひらって あれ勝手にレティシアさんついてきただけだし

おれ一回も応援申請とかしてないよ

怠惰一派が街で暴れるって知ったときは割と焦ったしそんなに数いるって知らなかったし

これは訂正すべきだ

うん 今すぐに


「あの・・・「すごいのじゃ 哲人は!」・・・」


タイミング逃したぁ

そんな目で俺を見ないでぇ 半分嘘だよぉ 結果論だよぉ それ

 

「では本題に入ります フィルメニア皇女殿下 並びに黒鉄哲人殿 

皇帝陛下より帝都に来たれりとのご命令が下っております」


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