第15話 英雄の誕生
なんとか間に合った 目の前の少女には
頰に大きな傷と首に赤い跡がある
雪のような白い肌に
赤い色はあまりに痛々しい
「ごめん 遅くなった フィル」
顔もいつもなら白い服も土で汚れておりこの少女の奮闘が伺えた
「哲人っ・・・良かったっ」
「いろいろ話したいことはあるけど まずごめん」
「へっ? ぷぎゃぁっ」
まずはこの場を離れることが優先だ フィルには申し訳ないけど
お姫様だっこをさせてもらう めっちゃ軽い
それに可愛い悲鳴が聞こえる・・・役得だなぁ
「待てぇっ! その女は置いていけっ 殺してやるゥっ」
それをかき消すかのような憎しみがこもった罵声が後ろから聞こえてくる
「哲人っ 攻撃がっ」
焦るフィルの声
「心配ないよ その攻撃は通らない 打ち消せっ!
不可視の攻撃はやってはこない
なぜならこっちはすべて見えているから すべて消せる
「なっ なぜっ 消えた 消されたっ 我が権能
そしてなぜ見える 空間の裂け目がぁっ」
黒いローブでやはり顔は見えないが憤怒でその顔を真っ赤にしているのは想像がつく そしてその間に燃え盛る屋敷に突っ込んで越えなければならない
それも後ろの狂人が追ってこないように だからイメージしろ
「
まるで火が生物かのように閉ざしていた道を開ける
気分はハリウッドスタ-のそれだ そのまま燃える屋敷を駆け抜ける
「っつ・・・」
その芸当とこの眼にフィルの息をのむ声が聞こえてくる
「窓から飛ぶよっ フィルしっかりつかまって!」
「・・・!」
飛ぶとはいっても残念ながらジャンプするだけだが
フィルは返事の代わりに抱き着く力を強める
そのまま屋敷の反対側に出る
「・・・はぁ なんとかなったな」
「無茶をしますな 哲人殿」
「お兄ちゃん! お嬢様!」
そこにいたのは老執事アルフとメイドのクズノハ
二人とも煤で汚れているが目立った傷もない
「「アルフ クズノハ」 さん ちゃん」
「お嬢様・・・良かったぁ ・・・ってお兄ちゃん!」
「いやはや 屋敷に侵入した雑魚に少々手間取りましてな ・・・哲人殿っ!」
二人ともなんでここにいるって感じだ
いや確かに大樹界におくりこんで一日もしないうちに帰ってくるだからなぁ
「どうやら 私の目が曇っていたようです 申し訳ありません 哲人殿
どうか 償いはこの老害の首一つで・・・」
老執事は真摯に頭を下げた
確かにおれは過失とはいえ確実に死にかけた 今こうして生きているのは結果論でしかない
「哲人 わらわも謝罪するのじゃ なんでもするのじゃ だから命だけは・・・」
フィルもそれを思い出したのだろう
こういうときは気にするなっていうのが王道 けどおれは・・・
「ええ もちろん 償っていただきます 条件は・・・」
「「っ・・・」」
「フィルとデートさせてもらいますからねっ 異論は認めませんよっ アルフさんっ」
静寂を打ち破り堂々の宣言 この思いは燃え盛る屋敷よりも強く熱い
「わらわがいうことではないかと思うが・・」
「それはちょっと」
だが反応は難色をしめしている ぬぬ やはり皇女殿下とのデートは厳しいか
「よいのか・・・そんなことで」
「それ 私のけじめにはならないと思うですが」
「いやいや アルフさんの責任でほとんど無理やりフィルはデートしますからね
反省してくださいよ 」
「は はぁ」
納得いかないといった感じだ 全くなにを言っているのか
なぜ俺がわざわざこの街に戻ってきたかなんて決まっているのに
「言いましたからね 男に二言はなしですよ アルフさん」
無理やりここは頷いてもらう 仕事も残っているしな
「では 行ってくるよ フィル」
「どこに?・・・」
引き留めるだとかそういうことは無粋ってわかってくれてるんだろう
「英雄になりに」
「そうか では 行ってこい!」
力強く背中を押してくれる声だ
一度フィルの顔を見る
その顔はあの
いつものフィルの顔だ 太陽のような力強い笑みだ
「いってきます!」
さぁ平凡な俺が英雄になりにいこうか
・・・
「あああああああ ふざけっ ふざけるなっ こんな こんなことなどっ
ありうるはずがあぁっ」
燃え盛さる屋敷はもうほとんどが燃え尽きもはや火の勢いは弱まっている
その中でもこの狂人の声は怒りは収まるところを知らない
でも・・・
「終わりだ ベルフェゴール なにもかも」
「ふざけるなっ 私の怠惰一派はまだ健在っ これからこの街の人間たちを あの女をっ・・・」
「いいや もう終わりだよ 怠惰さん」
凛とした声が響く
その声の主は紅い髪に紅い瞳
紅いマントを翻し剣を抜く
「残念ながら 君の部下はもう私の部下たちが打ち取らしてもらったよ
そして 残るのは・・・お前だけだ 怠惰っ」
「おまえはっ
「えっ 南壁を通らしてもらった人だ マジか」
一人だけ話についいけていない哲人
南壁を通るときにあっさり通れて しかも追ってもこないし
偉い人とは思っていたけどまさか
「てゆうかなんでここが?」
「ああ あの幸薄さそうな少年に頼まれてね」
オーゲンか・・・
途中で馬車を飛び降りたから完全に忘れていた
「終わりだ 怠惰っ これでっ なにかもがっ」
「なめるなぁっ こんな程度でっ 終わるものかっ こんな程度でっ」
「いいやもう終わったんだよ もうお前は権能を使えない」
「なにをっ いってそんなことっ ぇぇっっっ」
「おまえの権能は空間に裂け目を入れる能力だろう そしてその裂け目は見ることはできず触れれば自分の体は引き裂かれてしまう 不可視にして必殺の攻撃
自身にまとえばバリアにもなる チートの権化みたいな能力だ
だけど 俺のはもっと上を行くんでな」
「いいや 使っている 確かに使えているっ でもなぜだっ なぜっ
使った瞬間に消えるっ」
「それがこの
それなりの負担が眼には来るけど これであいつは無力だ
ここでヤバいのが眼が痛すぎて立っているのがやっという事実だが
てゆうか血が出てきそう
動けねぇ
「ふふっ ではっ あなたも相当消耗しているはず ならばここで近接戦をっ」
ヤバイ! 破れかぶれで打って出てくる可能性大
「させるとでも」
その声と同時に一閃 あまりに早い剣戟だった
斬られた本人が数秒間は気が付かないほどに
べちゃっ と首が転げ落ち そのまま転がって俺の足元まできた
「あばよっ 狂人
その首も蒼い粒子となり消えてゆく
この世にひとかけらも残さない
あまりにもあっけない一撃 あまりにもあっけない最後
狂人の最後はこれがお似合いだ
これで怠惰は死んだ
太陽が昇りはじめ 光が辺りを照らす
「終わった 長い二日だった 」
異世界生活二日目でこれだけ濃いのだ
これからどうなるのやら・・・
期待と不安が入り混じる
「疲れた・・・」
ただ疲れすぎてしまった
少し休もうか
哲人は意識を手放した
・・・
「全く すごいね この少年は」
倒れて少年をみて剣神は素直にこぼす
「これは次期 皇帝選はあれるかもなぁ」
そのつぶやきを聞いていたのは今昇っている太陽だけだった
第一章『激動の二日間』 完
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