第12話 不幸な行商人

なんとか大樹界も突破した 南壁もなぜか通れた

さぁ あとは城塞都市トルガルドを目指すだけのはずが・・・


「疲れた・・・」


-おい こんなところで止まっている場合か もう時刻は昼過ぎだぞ-


「わかってるよ ただ・・・」


膝に手をつき息を整える

すでに哲人は15㎞の道のりを走って踏破し20mもある壁を這い上がっている

いかに体力のある16歳男子でもかなりきつい道のりだった

本当ならすでへばっているだろう道のり

それでもフィルを救うためと根性と気合で疲労を騙してきたが


「動かねぇ・・・」


足がもう言うことを聞かないのだ

今ここで寝転がりたかった それをしてしまえば多分もう動けない


「青龍・・・トルガルドまであとどのくらいだ?」


-あと40㎞ってところだな-


40㎞か遠い あまりにも遠い 今から歩いたところで到底間に合わない

それに着いたところで疲労にまみれて戦えない

足手まといにすらなるかもしれない


「くそっ どうする?・・・」


近くで馬の蹄が大地を蹴る音がした

そこには大量の幌馬車が集まっている ここは南壁だ 軍の拠点であり大量の物資が集まってくる ほとんどの幌馬車の幌にの九つの龍の紋章が描かれている

しかし いくつかはその紋章が書かれていないものがあった


「たぶん あの紋章が描かれいているのは軍が使っているやつだ で描かれていないやつはきっと民間の業者だ・・・なら 交渉次第で街まで連れて行ってくれるかもしれない」


こんな事態に巻き込むのは心苦しいが今はそんなこと言ってられない


・・・



結論から言うとダメだった

正直フィルの名前を出して言い値を払うと言えば交渉はまとまると思っていたが


「あぁ 呪われた皇女の名前を出してくるとはいい度胸だな おい」


別の行商人からは


「嫌だよ 青龍の名前を出しても信用なんかできるかよ」


事情を懇切天寧に説明したら


「そうかよ まぁ仕方ねぇんじゃねぇの 青龍だし」


正直 

ここにある幌馬車を蒼眼ブルーアイズを使って消さなかったのが奇跡に等しかった

こんな感じで幌馬車の御者全員から断れた

一応軍の幌馬車を使えないか相談してみたが・・・

申し訳ありません・・・ そういった交渉は受け付けておりませんので

と速攻で断られた 

今 俺は木の木陰で休んでいた 顔はもう死んだような感じだろう

気付けば瞼が異様に重たくなっている 体と心がもう限界だと伝えてくる

このまま閉じてしまおうか・・・

そう思うほどに哲人の心と体は疲れ切っていた

青龍は先ほどから話かけても来ない

こっちから話しても答えなかった


「フィルはこんな中あんな笑顔を浮かべてきたのか・・・」


改めて感じた 少女が背負った呪いの重さ

まるで運命が死ぬと言っているみたいに残酷な現実ばかりだ

暫しの間を目を閉じた

一分の間 心を整理する時間が必要だった

ここでくじけないための

だからこそ気が付かなかった誰かが隣に腰かけたことに


「ん?」


自分と同年代の少年だった

その顔は絶望というタイトルが似合いそうな顔だった

眼の下にはクマができており虚ろに天を見上げている

灰色の髪がその見た目に拍車をかけていた

口はぽっかりと開いており 心ここににあらずといった感じだ

その姿は哲人ですら哀れに感じてしまうほどだ


「どうかしたのか?」


いたたまれなくなって話かけた


「はい? ああ どうも隣失礼してます ははっ嘆いているだけですよ 自分の不幸をね・・・」


「不幸?」


「はい あっ私 行商人してるものですが 運んできたもの価値がなくなりましてね 大赤字ですよ 全く」


「運んできたもの?」


「ええ 実は火の魔石を大量に運んできたんですよ これは火をつけるときに必須の素材ですからね」


「なんで 火の魔石を?」


「ええ 実は近いうちに軍が大樹界に大規模な攻勢を仕掛けるという情報が手に入れまして それで黒樹を焼き払うのに大量の火の魔石が必要になると思いまして・・・ 大赤字を覚悟で大量に買い込んだんですよ 軍が買えば相場も吊り上がりますから そしたら」


「そしたら?」


「なんでも大規模攻勢は大幅に延期すると」


「なんで?」


「いえそれが 詳しくはわからないのですがなんでも大樹界の黒樹が約10㎞にわたり消滅するという事件が起こりまして それで・・・大規模な魔獣氾濫スタンピートの予兆の可能性があるとのことなので参謀本部とヴォーバン中将が決定したらしいです はぁ なんでこんなことに・・・」


少年は頭を抱えながら愚痴をこぼした

少年の話を聞きながら思う 

ヤべぇ 心当たりしかない と

しかしと・・・この少年ならいけるのではないか?


「なぁ 君名前は?」


「オーゲン ・・・オーゲン スミスですけど」


「そうか オーゲン君 その魔石 言い値で買うと言ったらどうする?」


「言い値!? そ それ本当ですか! 」


「ああ ただし いくつか条件がある」


どちらのかはわからないが生唾をのむ声が聞こえた

少年はしばらく考え


「聞きましょう 」


「ああ とは言っても簡単だ 夜までに俺をトルガルドまで届けてほしい」


「・・・それだけですか?」


「ああ それだけだ」


「・・・あなたが 魔石を言い値で買い取る その保証は?」


ここが正念場だ


「俺はあるお偉いさんとつながりがあってな その人が確か大量の魔石を集めているって聞いたことがある その人なら・・・」


「嘘ですね」


「っっ・・・!」


「その程度の嘘 分かります 行商人舐めないでください」


そのままオーゲンは踵を返しその場をさろうとしていた


「まってくれ! 頼む おれは助けなくちゃいけない人がいるんだ 

それで どうしてもトルガルドまで行かなくちゃいけないだ」


全身全霊の土下座 額を地面にこすりつける

そのままの姿勢でいると


「名前・・・」


「えっ」


「あなたの名前まだきいていません」


「黒鉄哲人だが・・・」


「黒鉄さんですね 分かりました 話は聞きましょう」


・・・


「なるほど 呪いの皇女に 邪龍信教ですか・・・」


ひとしきり説明を終えた哲人だが正直もう無理のではおもっていた

いくらなんでも怪しすぎると だから・・・


「わかりました いいですよ 」


断られると思っていた


「ぇっ・・・いいのか 自分で言うのもなんだが相当胡散臭いぞ」


「いえ まぁ 相手が皇女殿下でなら約束は反故にはしないでしょう」


「これまたいうのもなんだがフィルだぞ いいのか?」


「フィルって フィルメニア皇女殿下のことですか?」


「ああ」


「だったら大丈夫ですね そんなに親しく呼び合う仲なら殿下も話を聞いてくれるでしょうし」


「!・・・青龍の呪いは気にしないのか?」


「はい? ああ はい大丈夫ですよ・・・」


「ありがとう! 」


哲人は全身全霊で頭を下げた

これでなんとかトルガルドまでの足を手に入れた

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