第13話 ついに・・・

城塞都市トルガルド付近の森のなか

時刻は空がオレンジに染まる少し前

そこに黒いローブを着た一団が陣取っていた

そのローブには九つの龍が苦しむ表情の首が描かれた不気味な紋章が刺繍されていた

黒いローブの一団が見守る中

二人の男が対峙している


「それでぇ 依頼ぃの失敗ぃのぉ言い訳はぁ それだぁけ かなぁ」


気だるげな口調で全身を黒いローブで包み顔もわからない

邪龍神教 怠惰のベルフェゴール


「言い訳っつても こっちからしたら聞いてねぇんだよ あんなのがいるなんて

怠惰のベルフェゴールさん」


こちらは灰色のローブに身を包み 灰色の髪に茶色の肌 黒い目をしており その顔立ちは殺しとは無縁の優しい顔だった

本来なら帝国のはるか南方に暮らしているはずの少数民族 灰色人グレイシードの証 首狩りの名で有名な男だ


「ふぅん まぁ いいやぁ 首狩りぃ・・・」


フィルメニアの暗殺に失敗し哲人に返り討ちにされた男

首狩り パウロ グレイマン

邪龍神教九大司教の一人 怠惰のベルフェゴール エイジナス


「でぇ どうするのぉ このぉ おとしまぇはぁ それにぃ せいしょぉまでぇ

おいてぇ くるなんてぇ」


「あの男をあの屋敷から排除するためだ 現にあの屋敷にもうあの男はいない

もう一度 チャンスがあれば 今度は確実に・・・」


「いいやぁ もうぅ いいよぉ じぶんでぇ やるからぁ」


「はっ? いやそんなことをしなくても・・・」


「君がぁ 怠惰なぁせいであの街のぉ にんげん みなごろしだぁ」


「まてっ なんで関係ない人間まで巻き込む必要があるんだ・・・」


「だからぁ 君のぉ せいでしょぉ きみがわたしのぉ げんのうぅ を授けてもぉ

やりそこねるんだからぁ それにぃ」


黒いローブの男は心底気だるげに応える これから虐殺を行うことに対してまるでなにも感じないように いや現に感じてなどいない

これは単なる仕事だ 聖書に書かれた内容を気だるげに実行しているだけだ

彼らからしたらはそれは朝起きて歯をみがくのとなんら変わらない


「なんでっっ・・・・え?」


そんなことを?

その言葉の代わりに出てきたのは血だった

グレイマンの胸に穴が空いている


「わたしのぉ げんのうはぁ 返してもらうよぉ

全くぅ 使えないなぁ せっかくぅ 貸したのにぃ消失ロスト程度しかぁ 使えないぃ

なんてぇ」


「っっっっぅぅぅ・・・・・」


喋ろうとしても出てくるのは言葉ではなく血だけだった

ここに首狩りと言われた殺し屋は死んだ

黒いローブを着た一団がベルフェゴールに話しかける


「大司教猊下 如何されますか?」


「うぅーん 予定ぃどおぉりいにぃ・・・ん?」


ベルフェゴールが聖書を覗くと急に態度を変え


「! いや 予定変更 猊下より御命令が下った

総員 準備せよ トルガルドの襲撃時刻を早める」


「はっ!」


かくして運命は変わっていく

より残酷な方へと


・・・


行商人オーゲン スミス の幌馬車にて

時刻は太陽が山に隠れる前


「いったい なんなんですかね この人?」


整備された道を馬車で走りながらオーゲンはふと少年を見つめる

トルガルドまでよろしくって言った途端に馬車の上で大の字で寝だした

いくらなんでも無防備すぎではと思う

一応高そうな籠手してるのに取られたりとか考え無いのだろうか?


「とは いえこれで助かりましたからね

僕も」


これで首の皮一枚繋がっただろうか

呪われた皇女 その名前は聞いたことはあるが

悪い噂は聞いたことはない

ただ邪龍神教となれば話は別だが

邪龍神教に近づくとなると相当なリスクがあるただ今回の負債はその程度のリスクを負わずしてどうこうできるものでもないし

あれてゆうかこの人死んだら皇女殿下から報酬もらえなくない?その逆も然り


「う〜ん 僕の人生かかってますね

あっ トルガルドが見えてきっっっっ!」


トルガルドが見えてきたのだがいつもとは明らかに違う光景に愕然とする


「黒鉄さんっ! あれっ!」


「んん? いつたか? っっ」


哲人はトルガルドという街を外から見たことはないものでもわかる明らかな異常


「けむりがっ! バカなっ! まだ太陽は沈みきってないのに! とばせっ オーゲン!」


「はいっ!」


乾いた音が響き馬の脚を速める

トルガルドから上がる尋常ではない量黒いの煙 それはこれからの過酷な運命を暗示するかのようだった


・・・


時刻は邪龍信教の襲撃が始める僅か前

トルガルドの一際大きい屋敷から一人の少女が出てくる

その顔は決してこれから街で遊ぶといった楽しさを孕んだものではなく

苦しさを紛らわそうといったものだった

ちょうど屋敷前を掃除していたクズノハが話しかける


「お嬢様 大丈夫ですか?」


「・・・ぅむ 心配ないのじゃ」


その声にはいつもの他人を鼓舞する太陽のような明るさと元気さは感じない

どちらかといえば自分を勇気づけている感じだ


「クズノハも大丈夫か? その哲人はあのようなことになってしまったのじゃ」


「クズノハは大丈夫です クズノハよりも・・・」


辛いのはあなたでしょう?とクズノハは言葉を続けることはできなかった

自分のことを一人称でクズノハと呼ぶのは禁止だといつものお嬢様なら言うはずなのに今日はなにも言ってこない


「えっと・・・その街に行かれるのですか?」


「うむ ちょっとな」


「なら クズノハもいくのです アルフさんに許可をとってくるので少し待っていてほしいのです」


「えっ? まっ」


返事をされる前に屋敷に向かって走り出す 拒否されるかもしれないがこんな状態のお嬢様を独りにはしておけない 無理やりにでもついていくそんな頼もしい雰囲気が伝わってきた


「クズノハ・・・」


フィルは妹分の名を呼び思った


「成長したのじゃな・・・」


こんなとき いやこんなときだからこそ感じる成長 

そうえばクズノハ拾ったのもちょうどここだったなとフィルは思った

クズノハを拾ったときはは大変だった

クズノハは自分のことを怖がるし

アルフの態度はあまりよくないしクズノハもすぐ涙目になってしまう

一人で寝れないからとぬいぐるみ片手に自分の部屋前まできて警鐘石を鳴らしていた そのたびにアルフに怒られてまた泣いて・・・

結局二人で寝て あのときクズノハは12歳だったかもうすぐ15歳だろうか


「成長とは早いものだな・・・」


うれしくも少し寂しく感じる成長


「そうじゃ もうすぐクズノハの誕生日なにか祝って・・・」


そう思った瞬間 屋敷から火の手が上がった

火の勢いは凄まじくこの夕日のような色をしている


「アルフ! クズノハ!」


急いで魔法で凍らして火を消し二人を助けるその思考は背後からの気だるげな声によってさえぎられた


「あなたぁがぁ フィルゥメニアァ 皇女ぉ 殿下ぁ ですかァ」


全身をローブで纏った男が立っている


「どうもぉ 私はぁ 邪龍神教九大司教 怠惰のベルフェゴールゥ ですゥ

そしてぇ さようならぁ」


その男は出会いの挨拶とともに別れの挨拶を

済ましてきて

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