第10話 少女の運命

九大神龍伝説-

この数千年前の伝説をいまだ帝国の人々が信じているのはなぜか?

それは神龍の奇跡を引き起こす力はいまだ継承されているからだ

伝説では龍の体は武器となり魂は帝国の民に引き継がれている


バハムート

ヨルムンガンド

ファフニール

リンドブルム

ククルカン

アンピプテラ

コトカリス

テュポーン

ヒュドラ


この龍に名を冠する武器は神具と呼ばれ誰もが使える武器ではない

龍の魂を引き継ぐものだけがこの神具と呼ばれる武器を使うことができる

そしてその龍の魂を引き継ぎ神具を振るう者たちを

帝国九軍神ナインマルスと呼ぶ


・・・


だがここに除名された十匹目の龍の神具を使うものがいた


「蒼眼手 セイリュウ?」


-それが籠手の・・・神具の名前だ

神具とはいってもあくまでも主体は魂だ

真に神龍の力が宿るのは魂だ

神具はその力を補助するに過ぎない-


「そうなのか・・・でこの黒樹全く消える気配すらない この現状をどう思う?」


フィルがいる屋敷まで一度も曲がらないという課題を達成するために

まずは目の前にある 黒樹を蒼眼ブルーアイズを使い消そうとしたのだが

全く持ってなんにも起こらない

眼の前にある黒樹はせいりゅうが消したのとは比べれば小さいのだが

それでも十分にでかい


-全く そんなだからお客さんの相手すらできんのだ-


お客さんとは哲人という獲物を喰らうためにやってきた魔獣どもだ とはいえ哲人にはまだ荷が重いのでせいりゅうが代わりに相手をしたのだが


「やってるんだけどな 妄想イメージだったら」


-それだけではだめだ この眼の力で一番大事なところは

自分を信じること 自分に不可能はないと思うことだ-


信じることか・・・ 


「倒れる気配すらない 視たいと思っても現実になってないぞ」


-それはお前が その眼の力を信じていないからだ

  即ち おまえは心のどこかでできないと考えている-


「・・・あれ? なぁ 青龍・・・それおかしくないか?」


-なにがだ?我は嘘などついておらんぞ やってみせたであろう-


「違う その神龍の魂とかのことだ フィルの呪いはそのせいりゅうの魂による呪いじゃないのか?」


-違う だから言っただろう あれは巫女の姿だと

あの少女に龍の魂など入ってはいない-


「だから何だよ巫女って」


-だから それ以上は言えない はぁ だめな奴め-


籠手に呆れられ若干心が傷つく

哲人は改めて目の前の黒樹を見つめる せいりゅうが消した黒樹と比べれば確かに小さいがそれでも十分にでかいのだ

自分がこの黒樹を消滅させるなんて・・・

どこかで自分の行為を笑っている自分がいた


「フィルは・・・きっと大丈夫なんだろうな」


ぽつりと呟く

きっと起きた時から朝日にも負けないような笑顔をあの屋敷にもたらすのだろう

そして俺みたいな困っている奴がいれば助けるのだろう

そんな日常・・・いいではないかフィルが笑っているのなら

そうだ でもなのに


「なんで こんなに辛いのかな・・・ 」


俺は醜い人間だ フィルの純粋な幸せを祈れない

だって


「その笑顔は俺にだけ向けてほしいなんて思ってるんだからなぁ」


どうしようもない人間だ あのお日様のような笑顔を独り占めしたいって考えてるこんな人間フィルに近寄らないほうがいいよな

ああ あきらめようかな・・・


-少年 諦めるのならその前に一つ言っておきたいことがある-


「なんだよ」


青龍はまるでなんでもないことのように


-その少女だがな・・・死ぬぞ 今日の夜に-


衝撃的な事実を哲人に突き付けた

その言葉に諦めかけていた哲人は冷や水をかけられたような感覚に陥った


「・・・はっ? 何をいっている?」


-我の力を忘れたか?我が眼はどんなものでも見通す眼だ

 当然 あの少女の運命も見通せる 無論この事実をしっているのは我とお前だけだ 救えるのもな-


「救えるのか?」


-無論だ 今日の夜までにこの大樹界を抜けることができればな

その少女は正確には殺されてしまう

相手は邪龍神教 九人いる九大司教が一人 怠惰の大司教だ-


「・・・強いのか?」


-見てみるか?-


「見る?」


-ああ この眼の能力を哲人はまだまだ使えていない ゆえに運命は見えない

  だが我が使えば見える 見るか? 悲劇の運命を-


「・・・ああ」


その言葉を発するのに覚悟が必要だった

フィルが傷つく姿など見たくもないが

今は敵の情報が一つでも欲しい


-では ゆくぞ-


その言葉と同時に哲人の視界は暗転した


・・・


そこは地獄だった

死が蔓延している 恐ろしい形相に歪んで倒れている人々

いたるところに血の水たまりができていた

夜という時間帯にもかかわらずやけに明るい 家が燃えているからだ

だからこそこの地獄がはっきりとみえた

そして気付いた ここがどこなのか


「ここ あの裏路地のところだ」


自分がこの世界に転移したところだ

裏路地を注意深くみると三つの死体があった


「っっぅぅおっっっぇええっっ」


思わず口を押えてしまう 覚えている あのチンピラ三人組だ

その死体はあまりにも歪だった 

胸のところにぽっかりとドーナツみたいな穴があいている


「っっっ・・・」


表情は恐怖そのものだ

そして穴の開きかたがとても汚いのだ

おそらくはゆっくりゆっくりと穴をあけられたのだろう


「ぅぅぅぅおおおおぉぉぉっっええ」


想像したらまた吐き気を催した

再び哲人の視界は暗転する


・・・


今度はフィルの屋敷だ

屋敷には日が放たれ夜なのに煌々と輝いている

あの無駄に豪華な扉を開ける

無駄におおきい中央のホールにでて少女を探そうとしてきづいた


「クズノハ・・・」


クズノハは箒をもったままだった

正確にはクズノハだったものだ もう何も言わない魂が抜けた肉の塊

これがこの子の運命なのか・・・ 

すると屋敷の奥で誰かの声が聞こえた きっと戦っているのだろう

いかなくては 哲人はおれそうになる心を再び奮い立たせた


廊下の途中で老執事が倒れているのを見つけた


「アルフさん・・・」


剣は折れ 体は傷だらけだ その顔は悔しさに歪んでいた

フィル・・・フィル


屋敷の廊下を歩いて歩いて ある広間にでてようやくみつけた


「フィル!」


この地獄でも可憐に咲く一輪の白い花

その表情は普段決して見せない怒りに染まっていた

そしてその怒りはこの燃える屋敷よりも熱い


「ゆるさぬぞっ 貴様っ」


その白い花の前にいる男 黒いローブで全身を覆っているために顔は見えないが

身長は哲人よりも高いがその体は極めて痩せているのがわかる

顔は見えない


「それはこちらのセリフだぁよ 君のようなものがいるからぁ

こんなぁに 殺さなくちゃぁ いけないぃ この怠惰がぁ 」


「ほざけっ 死ぬのは貴様なのじゃっ」


フィルが右手を向けると氷槍が五本出現した

その鋭利さは本物の槍よりも鋭く 強いと思われた


「はぁっ」


フィルの掛け声と同時に五本の氷槍が放たれる

それは避けることのできないほどの速度

五本の氷槍はそのまま黒いローブの男を串刺しに・・・


「なっ!」


するはずだった

しかしそれは消えていたのだ まるで初めからなかったかのような


「なぜ? きえぇっっ?」


少女の声が途中で途絶える

代わりにでてくるのは真っ赤な鮮血だ

フィルの白い肌を紅い血が這うように落ちてゆく

フィルの胸にぽっかりと穴が開いていた

そのまま少女は倒れ血の水たまりをつくった


「ぁーあ やぁっと おわったぁ」


少女を殺めた黒いローブの男はけだるげにつぶやく


「フィィィィィィィルルゥゥゥゥゥゥゥゥ」


哲人は叫んだ 

これがまだ現実に起こっていないとして

フィルの口はたしかにこう動いた


助けて 哲人・・・


視界が暗転する

哲人は決意を固める こんな運命には絶対にさせないと


俺はフィルを救って見せると

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