第9話 チートとメイドの願い

-そうだな その目をもっとわかりやすく

表現するならば

  

 お前が現実を視るのではない

  お前が視たものこそが現実となるのだ-


「全然わからないのだが・・・」


大樹界という人類屈指の危険地帯で籠手に話かける奇妙な少年が一人いた


-そうだな 手本を見せてやろう-


「手本?」


-ああ あそこにある 木を消滅させる―


「いや アレのこと言ってるのか?無理だぞ」


大樹界に生える黒い木々 黒樹

これまで哲人が視たことがある木よりもはるかに巨大だ 

その巨大な黒樹のなかでもさらにでかいのが生えている

そう例えるなら木というよりも五階立てマンションというべきか

幹の太さも馬鹿みたいに太い


-まぁ 視ていろ さて ちと借りるぞ-


「借りる? うおっ」


そういった瞬間 勝手に右手が動く 動かそうとは全くしていないのに

自分以外に操られているような 籠手が少し輝く

俺の右腕はピンと伸ばされた状態で手のひらを黒樹に向けた

そのまま左から右へ 手の平をスライドさせた


すると


「え・・・?」


前方のでかい黒樹が青い粒子となって消えていく

その光景は消滅というにはとても神秘的だった

五階建てのマンションほどにありそうなでかい物体が消えたのだ

手をスライドさせただけで 触れてすらいない

右手が自由に動かせるようになった


「なんだ これ?」


-これがこの籠手とこの眼の使い方だ

  しかし これはいうなれば初歩の初歩に過ぎない-

 

「これで初歩の初歩?」


-ああ 本来なら籠手すらも必要ないのだ もし我が使えば荒れはてた大地にを咲かせることだってできる ただしいくつかのルールがある-


「ルール?」


-この眼は見たいものをそのまま現実にする眼だ どんなものでも消せる

ただし この眼で見えるものだけだ-


「そうなのか?」


-そして この眼の能力最大の弱点 

凄まじい力なだけに

眼にものすごい負担が掛かる

この眼の力を使えば使うほどこの眼は光を映さなくなっていく-


「・・・まじか」


その言葉を口に入れて噛んで飲み込んで理解するのに相当な間が必要であった


「つまりは この能力を使いすぎると失明するってこと?」


-ああ だがこの籠手はそのためにある

この籠手は眼の負担を減らすためにある

そしてそれは動作次第でもできる-


「動作?」


-ああ 例えば 目の前にある木-


眼の前にある黒樹・・・さっきほどではないが充分にでかい


-例えば あの木を我がしたみたいに触れもせず消す このイメージはつくか?-


「いや 全然」


-だが 殴って倒せと言われれば?-


「いや 無理だろ」


-うむ だが 我がさっきした芸当よりは想像しやすいんじゃないか?-


「まだ できるかもしれないってレベルだが

ほとんど無理だろ」


-そう それだその かもしれない がこの眼への負担を減らすことになる

要はより現実味があればあるほど眼への負担は減らせるということだな

な-


「・・・了解した」


この絶望的な状況に一筋の光が差し込んだ瞬間だった

そうだ 自分はそれが得意ではないか


妄想イメージだったら任せろ 誰にも負けない」


-何かが違う気もするが まぁいい そして少年 おまえに課題を課す-


「課題?」


-ああ そこから15キロ先に帝国軍の対大樹界用の基地がある-


「おお! そうか なら意外と・・・」


-そこまで 歩いていけ ただし真っすぐな-


「真っすぐ?」


-一度も曲がってはならない 

迂回も禁止だ ただ真っすぐに歩け

黒樹が邪魔なら消せ 

曲がってはならないそれが課題だ-


「いや待てよ それ 眼への負担は? 」


-心配ない こんな樹 何本消したところで眼への負担などありはしない-


「本当だな それ・・・」


-もちろんだ そしてお客さんも来たみたいだぞ-


「お客さん?」


大樹界に紛れ込んだ哀れな人間を食らおうと獣たちが集まっていた


・・・


南方城塞都市トルガルド

対魔獣戦を想定して作られたこの街のとあるひときわ大きな屋敷

その屋敷の主に拾われメイドして働いている獣人の少女

名をクズノハという


「・・・大丈夫でしょうか?」


その言葉は主人を憂いての言葉だった


哲人様は邪龍信教の手先でした

ゆえに処分しました


その言葉を聞いたときのお嬢様の顔は数日経った今でも脳にこびりついて取れない

アルフさんに対して怒鳴り散らすようなことはしなかった 責めもしなかった

無表情で ただ 空虚に


「そうか ご苦労」


それだけだった

そしてそれ以降 一度も部屋から出てこられない

食事は部屋に届ければ食べてはくれる しかしほとんど残してしまっている

あの後 全力でアルフさんを説得した 自分があの夜見たものをすべて話した

アルフさんは


「クズノハの話はわからなくもない

 だがそれではあの少年の無実を証明できない」


そういってからは話も聞いてくれなくなった

食事の時部屋に入る その時にお嬢様を見るのだが

あれだけ弱弱しいお嬢様は初めてみた 

いつもの太陽のような笑顔はどこにもない

ただお嬢様は罪作りな方でその弱弱しい姿すらも美しいと思ってしまう

いつもが太陽なら今のお嬢様のはかなき笑顔はさしずめ月だろう


「お兄ちゃん お兄ちゃんがいないとお嬢様がとてもかわいそうだよ

もし生きてるならかえってきて・・・」


生存は絶望的それは知っている 

でも願わずにはいられないのだ

あの小さな英雄リトルヒーローがもう一度現れることを・・・

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