第6話 汝 疑わしきは罰せよ

朝日が瞼越しに入ってくる

なぜかけだるい黒鉄哲人は惰眠をもう少し貪りたく体捻ろうとするが

それは叶わずジャラジャラと鎖のなる音が鼓膜を刺激する


「んん?」

 

場所は昨日寝たベットだ 同様に足を動かそうとして同じ結果になった


「え・・・あれ?」


ようやく哲人の頭は異常事態を認識した

寝起きでぼやける目を必死に開き自らの四肢の現状を把握する


「鎖? おれなんで繋がれて・・・?」


いつもとは明らかに違う状況 ここが異世界だとかはまったくもって関係なく


「おはようございます お客様 では 話していただきますぞ 昨夜何があったのか?」


穏やかにしかしはっきりと怒りを滲ました声が寝起きの哲人の鼓膜を叩いた

その声の主は目の前の老執事だ 腰には執事にあるまじき剣を刺している

実に綺麗でさまになった姿勢でお辞儀ををした

だが その心は烈火の如く迸っていた


「えっと・・・その」


哲人のこの態度は至って正常だ 

いきなりベットに拘束された状態で素直に受け答えなどできるわけもない 

しかしそれがこの老執事の怒りにさらなる油を注ぐことになる


「わかんねぇか? なんであの子に近づいたって聞いてんだよっ」


その老執事は汚い言葉を使っても一切の気品を損なうことなく

さらなる気迫を感じさせた

怒りが殺気に変わったのを感じた哲人はまくしてるように


「待ってくれ! フィルと出会ったのは偶然だ 昨日話したじゃないか

それになんだこの状況は? フィルになにかあったのか?」


一瞬 老人の怒りが消えたかに見えたがそれは間違いだとすぐに悟る

嵐の前の静けさ この言葉が示す通り 


「フィルゥ?・・・ねぇ お嬢様を殺そうとした てめぇがそんなになれ親しく呼ぶんじゃねぇよ!」


「ま・・・まって まってくれ 殺す? とんでもない・・・命の恩人のフィルをころそうなんて・・・」


「その名でお嬢様を呼ぶんじゃねぇ!」


「ひぃっっ・・・・」


一瞬の抜刀  見えなかった・・・

剣先が目の前にあった もし後数ミリこの老人が剣を動かせば俺に目に剣が食い込むだろう 慌てて昨夜の記憶の海を辿る


「さ 昨夜は食事の後 ベットに行って・・・寝ましたえっと 

そのなにかあったんですか?」


あくまでも冷静に問いかける 

冷静に問いかけるばこの老人からなにか聞き出せるかもしれない

哲人のその態度に老人も剣をさげた


「昨夜 お嬢様の部屋がある廊下であなたが寝ているのを確認しました」


「・・・俺が?」


「はい で重要なのはあなたがこれをもっていたことです」


老人が一冊の本を懐から取り出す

サイズは大きくはなくラノベくらいだろうか とにかく黒い本だった 

視た感じではどこが1ページ目でどこがラストページなのかわからないくらい


「この本に身を覚えはありますか?」


「いえ 全く」


「これはとある宗教の聖書なのです その宗教の名は邪龍神教といいます そしてこの宗教団体は青龍を信仰する宗教なのです」


「・・・えっとその万が一にも俺がその宗教団体のメンバーだったとして青龍を信仰するならフィルを殺さないのでは」


「いえ 邪龍神教はお嬢様を青龍とは認めておらずむしろ偽物と思っております

それに・・・邪龍神教というだけでも処罰することはできます」


「どんなやつらなんですか? 邪龍神教って」


「言ってしまえばこの世界の癌です もっている力も凄まじく世界のすべてを敵に回しすでに100年 今でもなおその活動は衰えること知りません

ちなみにその活動とは破壊、虐殺、殺戮ですな」


「なんで滅びないんですか?邪龍神教って」


「それは世界最大の謎の一つですな」


哲人は考える 冷静に客観的にこの状況を

まずフィルが謎の少年を拾ってきた その少年はフィル真の姿を見ても特になんにも思うところはなく好意的に接している 翌朝その少年がフィルの部屋の前で発見された持っていたのは敵対する団体の会員証みたいなもの

やばい怪しすぎる・・・ フィルに好意的に接したのも単純に好意からじゃなくて近づくためっていうものと考えられたら・・・ いやでも待て


「まってください 凶器は?フィルの強さを俺はまじかで見ています 魔法を使える相手に武器もなしでそんな無謀なことをしますか?」


「なにを寝ぼけたことを・・・あなた今凶器をもっておりますよ 自分の手を見てみなさい」


「えぇ?・・・」


老人に言われ自分の手を見る 蒼く煌めく籠手が両手にはまっていた・・・

こんな状況でもなければ見惚れていただろう美しさ


「なんだこれ?・・・ いったい・・・いつ?」


哲人の頭は混乱するばかりだ


「撲殺とはなかなかどうして惨いことを考えますな・・・」


「っっ・・・」


マジでなんだよ これっ

哲人は自らの中で悪態をつく 凶器も見つかった けど けど・・・


「殺すどころか・・・指の一本も触れてないだろフィルには」


その言葉に老執事は心底 あきれたような顔で


「なにかが起こってからじゃ 遅いんだよ」


「っ・・・」


正論だ ああいやになるほどに執事の仕事を全うしようとしている

実はおれはこの世界に来た時に妙な術が仕込まれていてそれによってフィルを殺そうとしたのか?自分でも自分が信じられない

その顔を悟ったのか・・・老執事は剣を収める

鞘に納める音が嫌なほど聞こえるくらいその部屋は静寂だった


「さきほどから剣をぬいたりと手荒な真似をしました 謝罪申し上げます・・・

そして提案があります お嬢様が起きる前にこの屋敷を出て行っていただけませんか?無論お客様が望むであれば多少の路銀もお渡しします。行くところがないのならこの街ではありませんが職を融通することもできます いかがでしょうか?」


異世界にきて一文無しの俺からしたらこの上ない提案だ 

とりあえず働き口も用意してくれるしそれまでの路銀もくれるらしい

願ってもないことだ・・・

とりあえずこの世界で頑張れば生きていけるぞ・・・

でもそれは


「フィルにもう二度と近づくなということですか?」


「言う必要がありますかな?」


哲人は悟った あえて言わなかったのはこの老人のやさしさなどだと・・・

どうするこのまま要求をのめばなんとか生きてはいけるぞ

別にフィルに会えないだけだ あの少女に・・・


「嫌だ・・・」


それは意図して出た言葉ではない

衝動的にでた言葉だった

老執事が確認のために再度尋ねる


「もう一度 お願いできますか?」


なにをやっていると理性が叫んでいた

素直に従えとお前があの少女に肩入れする理由なんてないだろうと

だからこう言え・・・


嫌だ もうフィルと会えないなんてわかりました その提案受け入れましょう


この時声を出したのはきっと哲人の喉でもなく肺でもなく脳でもなく心でもなく

きっと・・・魂だったのだろう


「そうですか 残念です・・・ おさらばです 哲人さま」


そういった瞬間 哲人の寝ていたベットに黄色に輝く魔法陣が出現した・・・


「大樹界の藻屑となりなさい」




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