第3話 犬耳ロリっ子
「ここが我が家なのじゃっ 」
やや誇るような自慢するような声が背中から響く。
「すげぇ 大豪邸じゃん・・・」
日本にあるような和式の豪邸では勿論なくまさしく異世界にありそうな感じの大豪邸だ。
五階建てで庭も広く石でできた頑丈な壁があり鉄の門をくぐれば噴水がある。
ちょっと一晩泊めてもらおうと思ったけどそれすらも躊躇ってしまう豪華さだ。
「哲人! 足はもう大丈夫だから下ろしてほしいのじゃ」
「あ うん・・・」
ゆっくりと手を放すとストッと着地の音がした。
フィルが俺の手をつかむ心地よい感触が伝わる。
「では 哲人 ついてくるのじゃっ」
「え? いやでも」
「これからすることでもあるのか?」
「いいや ないよ」
瞬間フィルの表情は途端に曇天のように曇りだした。
「その……やっぱりいやかの わらわが……せいりゅうが……住んでいるところに泊まるというのは……」
「いやいや そのせいりゅうっていうのがなんのか知らないけど
あまりにも立派な屋敷だったから その躊躇ってしまってね もし問題ないのなら是非お願いします!」
一転、お日様のような笑みを浮かべる。
「そうかっ ならばついてくるのじゃっ」
フィルにやや強引に手を引かれ屋敷に入っていく、これがすべての始まりだった。
・・・
無駄に豪華な扉を開けると無駄に広く豪華な中央の大きなホールのような場所にでた。
一人の老執事が立っている。
背は哲人よりも高くその服装は格式の高い黒の正装だ。
完全に白く染まった頭髪は薄くなることとは 無縁の豊かさ、背筋はピンと伸び、衣服の下も老体に見合わぬほど研ぎ澄まされているのが伝わってくる
一礼しこちらに視線を向けてくる。
「おかえりなさいませ お嬢様 ・・・そちらの御仁は?」
その視線はこちらを推し量っているのがわかる視線だ。
主が怪しげな少年を拾ってきたから当然と言えば当然なのだが緊張する。
「うむ ただいまなのじゃ アルフ 我が恩人 黒鉄哲人なのじゃ 丁重にもてなせ」
「はっ ではお嬢様 まず湯浴びからいたしましょうか?」
「ああ 哲人も湯浴びしてくるのじゃっ あとそれは洗って返すから預かっておくのじゃ」
ジャージを渡す。
「ああ うん じゃあ お願い」
「では お客様 大浴場はこちらです」
「あれ フィルは?」
「わらわはすることがあるのじゃ 哲人は先に入るといいのじゃ」
「そう じゃあ先に失礼するね」
「うむ!」
アルフと哲人が大浴場にいったあとフィルは一人きりで哲人のジャージを見つめていた。
「ふふっ わらわの
少女は少年が着ていたジャージを顔に押し付け近づけ思いっきり息を吸い、それを数回繰り返す。
哲人の前では絶対にできない背徳的な行い。
わざわざジャージを預かったのはこのためなんて絶対に言えない。
「微かだがとても優しい匂いがするのじゃ」
この匂いをたどっていたらあの少年を見けたのだ。
「ふふっ あんな人がいるなんて思わなかったのじゃ」
顔にジャージをあてもう一度肺をこの優しい匂いで満たす。
のはずが……。
「お嬢様 さすがに二度目ははしたないかと」
老執事の冷静な声が鼓膜を叩いた。
先ほどまで夢見心地から一気に現実に引き戻される。
「ぷぎゃぁぁぁぁぁぁあっ ア アルフかっ て 哲人はどうしたのじゃっ」
可愛い悲鳴が屋敷に木霊した。
「湯浴びから上がられました。お嬢様もお早く、お嬢様が湯浴びから上がれば夕飯です。 客人を待たせてはなりません。」
「あ ああすぐに行くのじゃ」
自分はそんなにもこの匂いを嗅いでいたのか、自分の行為に戸惑いつつも大浴場を目指す。
そういいながらも哲人のジャージはアルフには預けず自分で持ったままなのだった。
・・・
アルフがフィルに話しかける数分前。
哲人はアルフとともに廊下を歩いていた。
大浴場までの廊下なのだがとにかく長い広い
途中で絵画や置物を見かけるのだがどれも埃一つなく手入れが行き届いているのがわかる、無論大理石で作られた廊下にも埃一つなかった。
「あの アルフさんでいいでんすかね?」
「はい 申し遅れました わたくしアルフレット クロノスと申します
この度はお嬢様がお世話になりました。できればその時の状況をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「はい てゆうか助けられたのは俺のほうなんですけどね」
異邦人の少年はしばしの間、この世界に来てからの物語を語った。
「それは それは・・・ 執事として感謝させていただきます」
老執事は一礼する。
「こちらが大浴場です 着替えは中にありますので どうぞごゆっくり」
「あ では失礼します」
そして大浴場の更衣室で服を脱ごうとして気付く。
「なんで フィルはジャージだけもっていったんだろう ・・・さすがに全裸になるわけにはいかないしな フィルなりの配慮だろうか?」
そのときジャージが何に使われているわかるわけがない哲人であった。
・・・
無駄に広く豪華な浴場を上がると食堂に案内されたこれまた広いな。
これまた異世界ものでよく見そう無駄に長く無駄に席が多い机が並んでいる。
すでに豪華な料理が並んでおり鼻孔をくすぐり食欲をそそる。
こっちの世界に来てからまだなにもたべていないが口に合うだろうか。
その部屋の一角に一人のメイドが立っている
メイドは一礼し、どこか事務的に言葉を発する。
「お待ちしておりました お客様 お嬢様からは お料理がさめないうちにさきに召しあがってください と申し使っております」
用意された椅子に座り少女をじっくりと見。 フィルも美しい少女だったがこのメイドの子もまた可愛い少女だった。
身長は150㎝くらいでフィルよりも小さく顔つきも幼い子だ。
確実に俺よりも年下だろうけどとても丁寧な言葉遣い、それになにより犬耳がある そして尻尾がある。
この世界にきてから初めて近くで見る獣耳だった。
「あ どうも そのもしよければ名前を教えてくれませんか?」
「私の・・・ですか?」
「はい あなたです」
「クズノハといいます この屋敷でメイドをしております」
「なるほど クズノハさんですか この屋敷にはほかにメイドの方はいるんですか?」
「いいえ 私だけです この屋敷にいるのは私とアルフ様の二人です」
「二人でこの屋敷を管理しているんですか? すごいですね」
「いえ そんなことは・・・」
微かに犬耳と尻尾が動いた。
「そんな謙遜しなくても
少しこの屋敷を見ましたが埃一つ落ちてなかったですよ」
「そ そうですか」
さらに犬耳と尻尾が動く、顔も若干赤くなっている。
もう一押し
「いやはや この広さの屋敷なのにこの丁寧な仕事ぶりすごいね。クズノハさんってこんな小さいのにえらいなぁ」
「ぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
ブンブンと音が聞こえそうな勢いで尻尾が左右に振っている。
耳も活発に動き手で顔をかくしているが確実に赤くなっているのがわかる。
「そ そんなに ほめないでよぉ・・・」
ようやくこの子の年相応の顔が見れた。
哲人はここである衝動に駆られた。
頭を撫でたい、あわよくば犬耳も……。
「その・・・頭をなでてもいいかな」
「えっと かまいませんよ・・・お客様」
「お客様じゃなくて哲人ってよんでくれないかな」
「てつと・・・ てつと お兄ちゃん?」
「ぐはぁっ・・・」
「え 大丈夫 哲人さん ごめんなさい 私 兄がいないからそのお兄ちゃんに憧れちゃって」
哲人は胸を握りしめ椅子から崩れ落ちた。
これが犬耳ロリッ子によるお兄ちゃんか、やばい破壊力が違う。
「おにいちゃんでいいよ あと 大丈夫だから うおっ」
「きゃあっ」
膝立ちから立ち上がろうとして逆にバランスを崩した結果、クズノハを巻き込んでしまう。
「だ 大丈夫? お兄ちゃん?」
「大丈夫だ・・・よ?」
ちょうどクズノハを押し倒すような姿勢になってしまった。
それにタイミングの悪いことに扉が開く。
「哲人~ どうじゃ アルフの料理は・・・?」
なんというベタなパターンだろうか、その場面をちょうどフィルが見てしまった。
もしこれがラノベような作品ならもっと状況を凝れと作者に言いたい。
そんなメタ的な思考を働かせている、黒鉄哲人だった。
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