第二王女と、火炎の魔法師 2

『火炎の魔法師』ディグ・マラナラはとても美しい男である。赤髪の美しい髪を持つ美青年。今年二五歳になるというのにもかかわらず、結婚する気のない英雄である。



 異性関係がだらしなく、一人の相手を決める事はない。国王であるシードル・カインズからも結婚の話は幾度か来ていたものの、全部断っていた。ちなみにシードルは、異性関係のだらしないディグに娘を嫁がせるのは嫌だという気持ちもあるようで、第二王女であるキリマ・カインズとの縁談は敢えて持ってきていなかった。最もシードルは親バカなので、本当にディグがキリマを娶る気があり、幸せにする気があるのならばそれを許可するだろうが。


 その日も、ディグのもとにはキリマがやってきていた。キリマは「ディグ様、おはようございます。結婚してください!!」と挨拶のように口にしてから、侍女達に「キリマ様、お時間です」と連れ戻されていっていた。


 キリマ・カインズは、ディグ・マラナラに求愛の言葉をずっと口にし続けている。その事は、城内に居る者達にとっては周知の事実であった。




「ディグ様、キリマ様は本当にディグ様の事が好きですね……。ディグ様は確かに見た目は良いですけれど……キリマ様ならもっと良い相手がいると思うんですけどね」

「……フロノス、その言いぐさはなんだ」

「なんだも何も、ディグ様は確かに『火炎の魔法師』と言われる英雄ですし。ヴァンの方が有名になってしまいましたけれど、見た目も良いですし、英雄ですけれども……でもディグ様は実際はとても女性にだらしなくて、いつもだらけていて、外で英雄としてみている分ならともかく……結婚相手としてはちょっと……」




 フロノス・マラナラはディグ・マラナラの弟子である。『火炎の魔法師』の弟子にして、『破壊神』の姉弟子——『火兎の魔法師』と最近呼ばれだしているのは《ローズホーンラビット》のミィレイアと共に活動しているためついた呼び名である。フロノスは契約をした当初よりも魔力量が多くあり、以前よりもミィレイアの事を顕現させる事が長く出来るようになっていた。



「俺は結婚する気がないからいいんだよ。それより、フロノスはそういう相手いないのか?」

「……私も現状はそういうお相手はいません。それよりも『火炎の魔法師』の弟子であり、『破壊神』の姉弟子として相応しくあることが私にとって重要ですから」




 弟弟子が『破壊神』などと呼ばれ、大陸中に名を馳せてしまったのもありフロノス・マラナラはその姉弟子として相応しい姿を求められる。そもそも、フロノス自身がディグの弟子として、ヴァンの姉弟子として相応しくないといわれるのが嫌だと思っているのだ。負けず嫌いなフロノスは、一心に努力を続けていた。



 自分が天才ではない事を知っているからこそ、フロノスは頑張り続けてきたのだ。その結果、彼女は立派に英雄と呼ばれる分類になっていた。

 そんな風に強くなるための努力をし続けた結果、フロノスには恋人と言った者はいない。加えて、好きな相手というものもいないという状況に陥っていたが、フロノス本人はそれよりももっと強くならなくてはとそればかり考えていた。




「まぁ、私の事はともかくとして、キリマ様のことですよ。キリマ様の事! キリマ様って、ディグ様の事諦める気がない気がするんですよね」

「まぁ、確かにあきらめは悪いな」

「ですよね。これだけばっさりディグ様に振られているのに、なんというか……凄いですね。でもそろそろ年齢的にもこのままではいられないでしょう。その時、キリマ様がどういう行動に出るのか私には想像できません」

「……流石に諦めるんじゃねぇの?」

「ディグ様は恋する乙女を甘く見すぎだと思います。キリマ様はそんな簡単に諦めないと思いますけど」

「あんなの、憧れか何かの混同だろう。寧ろ、一年とかで飽きるかと思ったんだが……」

「まったく、ディグ様は分かってませんね……」



 はぁ、とため息交じりにフロノスはディグを見た。

 フロノスからしてみれば、キリマの抱いているのは紛れもない恋であり——決して、簡単に諦めるようなものではないように見えた。




(寧ろ、夜這いでもなんでもしそうな気がする)



 とそんな風に考えているわけだが、ディグ・マラナラはそこまで考えていないようだった。



(ディグ様がこれだからなぁ……。キリマ様もディグ様と結婚まで持ち込むとなると大変そうだ)



 フロノスは他人事のようにそんなことを考え、一先ず、心の中でキリマにエールを送るのであった。



 ―――第二王女と、火炎の魔法師 2

 (『火炎の魔法師』は第二王女の思いを軽く見ている。第二王女は、どうするのか)


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