第一王女と、他国の英雄 2
「……ザウドックが、やってくる」
呟きながら、窓の外を見ているのはカインズ王国の第一王女であるフェール・カインズである。水色の髪と美しい金色の瞳を持つフェールは、今年もう十八歳だ。王侯貴族としてみれば結婚していてもおかしくない年。婚約を結んでいる相手が居ないというのも遅いぐらいの時期だ。
美しい見目と、カインズ王国という大国の姫であるという事実からフェールと婚姻を結びたいというものは多い。
何より、カインズ王国は『破壊神』と呼ばれるほどのに活躍した天災とも言える力を持つ存在が居る国だ。『破壊神』ヴァンと敵対をしたくないと考えている国々は、カインズ王国と親交を深めたいと望んでいた。だからこそ、フェールには沢山の縁談が舞い込んでいたわけだが、それに対して、もう少しだけ縁談を結ぶのを待って欲しいとフェールは父親であるシードル・カインズに頼んでいた。
それは、期待していたからだ。三年前に自分を好きだと言ってくれた少年の事を。
三年前にした約束の事を、フェールはちゃんと覚えていた。だからこそ、第一王女として自分を磨きながら彼女は待っていた。
いつか、彼が王女を娶れるぐらいに名声を手にする事を。
ただ、手紙で交流はあるとはいえ、ザウドックとはあれ以来会っていないのだ。だからこそ、もしかしたらザウドック・ミッドアイスラの心には別の誰かが居るかもしれない。そんな懸念も当然あった。けれど——、もし仮に心変わりをしていたとしてもそれでもザウドックという少年に久しぶりに会いたいとフェールは思っていた。
自分をまっすぐに見つめて、自分の事が好きだと伝えてくれた年下の男の子。
――すぐに思いにこたえる事はせずに、約束をしてしまった男の子。
三年という月日を得て、本当に他国の王女を求められるまでの名声を手にした男の子。
実際に会ったのは昔だとしても、フェールの心が動かされないはずもなかった。もしかしたらフェールと手紙のやり取りをしているとはいえ、フェールを好きだという気持ちは失われているかもしれない。だけれども、もし、まだ自分を好いていてくれているのならと期待してしまっていた。
それは、妹たちが仲良さ気に過ごしているのを見たからこそと言えるかもしれない。フェールの妹であるナディア・カインズは婚約者であるヴァンと仲良く過ごしている。互いしかいらないとでもいう風にイチャイチャしている二人を見ていると、フェールも王女として政略結婚をしなければならないと覚悟していてもそういう恋愛というものに憧れを抱いていた。
散々、昔自分勝手していて、誰かに好かれるほどの人間ではないと自覚しておきながらも、やっぱり、そういう気持ちを誰かが向けてくれるというのは心が温かくなるものだった。
(……私の事を好きだって言ってくれた男の子。そして隣国で名をはせている男の子。私を好きだって言ってくれた。でも……あれから三年も経ってる。そういう気持ちが無くなっている可能性の方が高い)
フェールは現実を見ている。だからこそ、三年も経過しておきながら一度だけあった自分をずっと思い続けてくれる可能性は低いと思っている。
(……他に思い人が居るなら精一杯応援しよう。そして私は婚約者を選ぼう。婚約者候補は幸いに多く居るのだから。……どちらにせよ、結婚適性年齢のうちには婚約者を選ばなければならない。これがザウドックがどう思っているか知る、最後のチャンス。もうそろそろ、待てないから)
フェールは王に縁談を結ぶのは待って欲しいと頼み込んでいたが、結婚適性年齢を過ぎるまで待つ事は考えていなかった。もし、もう少しザウドックが名をあげるのが遅ければザウドックとまた邂逅する事さえフェールは出来なかっただろう。
それも含めて、また会えるという事が嬉しいとフェールは思っていた。
(もし、ザウドックがまだ、私の事を好きだと思ってくれているなら——私はその想いに応えよう)
それを思うと、フェールは心が温かくなった。
もし——とそう考えただけで嬉しくて仕方がない。手紙のやり取りしかしていなくても、フェールはザウドックに惹かれていた。自分を好きだと言ってくれた男の子は、まだ、自分を好きだと思ってくれているだろうかと、それを関げて不安を感じるものの、フェールはザウドックに会える事を心待ちにしているのだった。
――第一王女と、他国の英雄 2
(第一王女は少年に会える事を心待ちにしている)
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