番外編 8
カインズ王国の王妃になる少女 1
カインズ王国の王太子であるレイアード・カインズ。赤髪赤目の美しき王太子。
カインズ王国の王妃の子である彼は、十九歳で政略結婚を結ぶ事になっていた。結婚相手は、政略により結ばれた他国の姫。カインズ王国から遠く離れた国から嫁いでくる美しい姫。
文通は交わしていたものの、直接会うのは婚姻の場が初めてだった。
さて、遠く離れたルクラ王国から送られてきた姫は、十六歳になる第一王女であった。灰色の髪を持つ少女は馬車に揺られてカインズ王国へ向かいながら不安に包まれていた。
ルクラ王国は小さな国である。
カインズ王国よりも国土は小さい。ただ、ルクラ王国民は魔力を持つ者が他国よりも多く、特に王族は魔力が多い。そのため、ルクラ王国の王族と婚姻を結ぶ事を望む国は多い。また、良質な魔力に満ちているルクラ王国は、魔力を持った鉱石も多く産出される。今まで、あまり国交が結ばれていなかったカインズ王国とルクラ王国の絆を結ぶための政略結婚である。
ルクラ王国の第一王女、グニー・ルクラがレイアード・カインズと婚約を結んだのはほんの数年前の事だ。それから、十六歳になる頃にカインズ王国に嫁ぐ事は決められていた。なので、カインズ王国に嫁ぐ事に関しては何も異存はない。そもそも、政略結婚としてもレイアード・カインズの元へと嫁ぐ事は当たりの分類に入るものである。
ただ、つい先日、カインズ王国の英雄『火炎の魔法師』ディグ・マラナラの弟子である少年がやらかした事件については、ルクラ王国にまで広まっていた。
『破壊神』、『国落とし』、『召喚師』、『最強の魔法師』などと様々な名をたった一つの事件で大陸中に広めた召喚師にして魔法師。『破壊神』や『国落とし』などといった呼び名に関して言えば、人に対する呼び名というよりも、魔物か何かの呼び名と言われた方がしっくりくる。
さて、シザス帝国の宮殿を破壊し尽し、そこに向かうまでの道中の建物を破壊し尽したその存在は……レイアード・カインズと婚姻を結ぶという事は、いずれグニーの義理の弟になるという事である。
(一人で国を相手に勝利する事が出来る存在なんて、我が国にだっていない。私達の国は魔法国家と言われているけど、そんな国でもそういう事は出来ない。そんな存在が……レイアード様の妹様の婚約者)
もちろん、グニーの心の中にはレイアードが本当に噂通り優しい人間なのだろうか、カインズ王国の王宮で上手くやっていく事が出来るのだろうかという心配も大きい。だけれども、つい先日広まった『破壊神』の噂を聞いて、どれだけ恐ろしい人物なのだろうか、そんな存在の義理の姉になんてなれるのだろうかとそちらの心配が強かった。
ルクラ王国は、カインズ王国から距離がある。それもあって、正しい噂というのは、近隣諸国以上に正しく入ってきていない。
それもあって、グニーはカインズ王国への道中で不安を感じていた。
そんな不安を感じていたグニーは、カインズ王国の王宮へと足を踏み入れた。
カインズ王国の王宮に辿り着いたグニーは、丁重にもてなされた。長旅で疲れているだろうからと客間に案内される。
案内してくれたのは、王宮で侍女長を務めているタリという女性だった。
グニーは共にルクス王国からカインズ王国にやってきた五人ほどの侍女達と共に客間のソファに腰掛ける。
「グニー様、カインズ王国の宮殿は立派ですね。ルクス王国とくらべものになりませんわ」
「そうですね。とても立派ですわ」
グニーが居るのは、王や正妃、そして王妃の子が過ごしている王宮の一の宮の客間である。小国であるルクス王国の王宮に比べて、国土も広く国力も強いカインズ王国の宮殿は立派だった。
こんな立派な所でこれから過ごしていくと思うと、少しだけグニーは落ち着かない気持ちになった。
「レイアード王太子殿下はどのような方なのでしょうね?」
「文を見る限り、気遣いの出来る方と思いますけれど。想像通りの方であるならば嬉しいわ」
政略結婚であるのならば愛のない結婚が多い。愛がなくても婚姻を交わし、子をなすのが王侯貴族である。とはいえ、出来るのならば愛じゃなくてもいいので仲良くやっていきたいというのがグニーの本音だった。
「カインズ王国ほどの国だと側妃も娶るでしょう。でも……王と王妃として仲良くやっていきたいわ」
カインズ王国の現王であるシードル・カインズは王妃だけではなく、亡き側妃を含めて三人の側妃を持っていた。ならば、レイアード・カインズも同じように側妃を持つだろう。そう、グニーは考えている。
「なら、これからがんばりましょう。グニー様」
「私達はグニー様の味方ですからね」
侍女達がにこにこと笑ってそう言ってくれたので、グニーも笑みを零した。
―――カインズ王国の王妃になる少女 1
(少女は嫁ぐために小国からカインズ王国に乗り出した)
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