210.VSシザス帝国について 3
ヴァンがシザス帝国の帝都に向けて、直行している頃、シザス帝国の帝都の宮殿にカインズ王国の第三王女であるナディア・カインズとトゥルイヤ王国の第二王女であるビィタリア・トゥルイヤは居た。
窓のない部屋に彼女たちは捕らえられている。
ナディアとビィタリアは人質としてもてはやされている。今の所、彼女達を殺そうという気はないようなので二人はほっとしながらその宮殿の中で過ごしている。
現在、監視の者が常にナディアとビィタリアの事を見ているので、二人で会話をする事もままならない。だけれども、ナディアは気丈に過ごしている。
(ヴァンが絶対に私を助けに来てくれる)
その信頼を持っているからこそ、ナディアは泣きわめいたりはしない。正直、泣きたい気持ちがないわけではないけれども、それでもナディアは泣きたくなかった。そんな事をしたら相手の思うつぼのように思えたから。
「ナディア様、ご機嫌はどうですか」
そんなナディアの元へとやってきたのは、このシザス帝国の皇太子である男である。皇太子であるグラド・シザスは漆黒の髪を持つ美しい男である。
この皇太子と、その父親である帝王がナディアやビィタリアを人質にする事を目論んで、行動を起こした主犯であった。そもそもの話、合成獣の件に関しても帝国内ではその研究を進める事に難儀を示す勢力も多くあったのだ。だというのに、彼らは強行突破して進めた。
それだけ、帝国内では帝王と皇太子の権力が強いのであった。
「……ごきげんよう、グラド様」
ナディアやビィタリアの元へ、皇太子はやってくる。特にナディアによく話しかけにくる。それは皇太子がナディアの美しさに惹かれているからに他ならなかった。
どうやら、このグラド・シザスは、ナディアの事を皇太子妃にしたいと望んでいるようで、それもあってナディアは酷い扱いを受けていなかった。
しかし、
(……困ったものだわ。私はヴァンと婚約しているし、ヴァンの事が好きだもの。他の人にそういう目を見られても、私は困るわ。やっぱり、好きな人が出来ると、その人以外にはそういう目で見られても困ってしまうものね)
ナディアはそういう目で見られてしまうと困ってしまうのだ。
ナディアはこういう事態になっているからこそ、余計にヴァンの事を大切に思う気持ちがあふれ出ていた。
それに加えて、グラドは自分の勝利を一切疑っていない様子だった。カインズ王国やトゥルイヤ王国を相手にとって、彼は勝てると思い込んでいる。
『火炎の魔法師』でさえも無力化するだけの力を手に入れる事が出来たのだから、負けるはずがないと思い込んでいる。
グラドはナディアの後にこちらに来るはずだったサマ・トージが到着していない事が気がかりだったが、何か魔法具に不具合があったのかもしれないと思い、特に気にしていなかった。……トージ公爵邸が崩壊している情報は、まだここまで届いていなかった。
そして、この世界、伝達能力がそこまで高くないので、ヴァンが強行突破してこちらに色々破壊しながら向かっている事も届いていない。……伝達の騎士達よりも先に、ヴァンの方が恐らくここに到着するだろう。
「ナディア様」
そう言いながら、グラドはナディアに手を伸ばそうとする。だけれども、それには触れられない。ナディアが触れられたくないと願っているのもあって、魔法具が弾いた。
ヴァンの魔法具は、こういう風にも作用しているのだ。
触れられない事に対して、グラドは忌々しそうにナディアの持つ魔法具を見る。
「本当に忌々しい限りだ。その魔法具さえなければ貴方に触れられるというのに。……まぁ、いいでしょう。貴方の婚約者の方には死んでもらうとしましょう。そうすれば諦めがつくでしょう」
勝利を疑わないグラドは、笑いながらそんな事を言う。
彼は、カインズ王国との交渉では、ナディアの婚約者であるヴァンの事を処刑するようにしよう、などとそんな事を考えていた。あくまで、グラドはヴァンの実力をきちんと把握しているわけではないのだ。
「……私は貴方のものにはなりません」
はっきりとした言葉でナディアは拒絶する。拒絶の言葉を言えるのもヴァンの魔法具によって守られているからである。守られているからこそ、こうして拒絶の言葉を口にする事が出来たのであった。
「ふん、そう言っていられるのも今のうちだけだ」
グラドは拒絶の言葉を言い放つナディアを見据えて、そんな事を告げる。
グラドは拒絶されたことで、ますます魔法具を忌々しそうに見る。そうしながらも、嫌がっている女を懐柔していくのも良いだろうなどと考えて、美しいナディアを自分のものにする事ばかり考えていた。
ナディアは、その視線に、
(ヴァン、早く、私を助けに来てね)
とヴァンが来る事だけを祈っていた。
―――VSシザス帝国について 3
(捕らわれている中で、第三王女は婚約者の事を思う)
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