168.公子の話を聞く第三王女について
「ダーウィン連合国家の公子様が?」
ナディアは父親であるシードル・カインズと、兄であるレイアード・カインズ、宰相であるウーラン・カンダスから話を聞いて不思議そうな顔をした。
ダーウィン連合国家はカインズ王国の長年の同盟国家である。ダーウィン連合国家の公子とナディアは顔を合わせた事はない。
そもそもダーウィン連合国家は一年事に代表が変わるというカインズ王国とは異なる形態を持つ国である。今年の代表である公爵の息子という立場である公子の事は名前などしか知らない。カインズ王国の王女として、ダーウィン連合国家の事は学んでいるものの、実際の事は知らない。
「ああ。ナディアへの縁談の話が来ていたのだが、それを断っても諦めきれないようなのだ」
「どうして、会ったこともない私に?」
ナディアは、ダーウィン連合国家からの縁談の申し込みなど来るなどとは欠片も思っていなかった。
そもそも、ナディアはヴァンと婚約の話を進めるという話をもらっていたのもあり、そういうことを考えてなかった。
(そうか。ヴァンとはまだ婚約を正式には交わしていない。私は王族として政略結婚をするというのが本当なら当たり前なんだ。幸い、カインズ王国は国内に余裕があって、私やお姉様たちが政略結婚を強いられる事は今の所ない。でもそれはお父様やお兄様たちが、私たちの意志を尊重してくれていて、ただ本当に運が良いというだけなのだわ。……私、ヴァンがと婚約をさせようと思っているという話を聞いてからそれ以外の可能性頭から排除していた。私は……ヴァンの事を本当に大切に思っている。ヴァンのこと、好いている……とは思う。でも、それがそういう恋愛の気持ちなのかとか私は自覚はなかったけど……でも、私はヴァン以外考えてなかったというのだから、やっぱりヴァンのことそういう意味で好きなのかもしれない)
ナディアは、ヴァンとの婚約の話をもらってから他の可能性を一切考える事がなかった。自分をずっと守ってくれて、自分の事を第一に考えてくれていて、真っ直ぐに自分を見ている。そんな存在であるヴァン。
(ヴァンが現れてから———ううん、ヴァンの召喚獣が私の事を守ってくれるようになってから、私にとってであってなかった頃から私を守ってくれるヴァンの事を気にかけてた。ヴァンが私の前に現れてからは、ずっとヴァンの事から目を離せない。ヴァンは私なんて比じゃないぐらいに凄い。平民だけど、王族の私なんかよりもずっとずっと凄い。私はヴァンに追いつきたいってそればかり思ってる)
ヴァンが居てくれたから、だからこその自分がいるとナディアは思う。ヴァンが居てくれたから、ヴァンが守ってくれたから———、だからこそのナディアがいる。
出会う前からも、守ってくれる存在をひしひしと感じていた。出会う前だって感じていた存在。王族の自分よりも断然凄いとナディアは断言できる。
「ああ。だからナディアひとまず、会いたいという話なのだ。断られるのが納得がいかないため来ると言っている。だからこそ、ナディアに相手をしてもらうことになると思う」
「はい」
「ナディア……万が一だが、その公子との婚約を薦めたいと思ったらいってもらっても構わないのでよく考えるように」
「え?」
そういう言葉が出てくるとは思わなかったナディアは思わず驚いて父親を見返す。
「いや、ナディアにヴァンとの婚約を薦めるという話をしていたが、ナディアの意志を尊重したいと私は思っているのだ。だからこそ、こうして断られたとしてもナディアと縁を結びたいと考えているものならば選択肢として考えてもいいのではないかと思っている。ナディアがダーウィン連合国家の公子と接してみて、それでどうしたいかを考えて欲しいのだ」
シードル・カインズは、親バカである。ヴァンを国に留めておくためにナディアとヴァンの婚約話を進めるべきだろうと国王としては考えていた。だけれども、やはりナディアの気持ちを大事にしたいと思っているのだ。
お断りの手紙をダーウィン連合国家に送り返したものの、改めてナディアとの婚約をしたいと強く願っているという点から、そういう可能性もありかと考えたのであった。
「……そうですか」
ナディアはそう答えながらも、思考する。
(……そうね。私の事を気に入って、私に会いに来ているのだからきちんと対応をしないと。そして向き合って、向き合った上で私がどうしたいか、それをちゃんと見つける。それが一番良いのかもしれない。他の人と婚約を結ぶ可能性を考えて、そのうえで私がどうしたいか……。その上で、私がヴァンとずっと一緒に居たいというのならばその私の気持ちはきっと本物だろうから)
他の可能性を考えた上で、どうしたいか考えたいとナディアは王の言葉に改めて感じたのだ。
――――公子の話を聞く第三王女について
(第三王女は公子の話を聞き、父親の言葉に改めて考えるのだった)
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