166.舞い込んできた話について
カインズ王国の国王の執務室で、カインズ王国の国王であるシードル・カインズが書類仕事を進めている。国内の出来事に対して、国王以外には判断が出来ない仕事は多くあるのである。まだシードル・カインズは若く、王太子であるレイアード・カインズに国王の座を譲ることはないが、何か不測の事態があった王太子が国王の代理を出来るようにレイアードは国王としての仕事を学んでいる。
他国の王宮では、王位継承権の争いがあったりとするかもしれないが、幸いな事にカインズ王国の王子王女達によるそういう争いは今の所ない。
そのことをシードルは、嬉しく思っている。子供たちが仲良くしてくれている事がシードルにとって幸福な事である。
「―――娘たちはどうしているか?」
「……元気に三姫とも過ごしておられますよ。陛下、後から姫様たちに会えるように手配しますからもう少しやる気を出してください」
「ああ。わかっている」
この国王、仕事に関しては有能であるのだが、娘が大切でよくこんなことを言っている。宰相であるウーラン・カンダスは呆れた目を向けている。
(本当に陛下といい、レイアード殿下といい有能であるとはいえ、こういう所はどうにかならないですかね。いえ、しかし何も欠点がない人間というものはいないので、こういう所がなければ他に悪い部分が出来るかもしれない。そう考えるとこの程度の欠点で良かったというべきだろうか)
ウーランはそんなことを考えながら、頭を悩ませていた。
「ああ、そういえば、陛下……もうすぐナディア様の誕生日ですね」
「ああ、そうだな。ヴァンに負けないようにプレゼントを用意しなければ」
「……今度は何をプレゼントするんでしょうね?」
「去年は……あんな魔法具だったからな。流石にあれ以上のものはないんではないか?」
「……そうですね。どうするのでしょうか。あと、ダーウン連合国家より書状が来ておりましたよ」
ウーランはそういいながらシードル・カインズに向かって一通の書状を渡す。それはカインズ王国の東に位置するダーウン連合国家からの書状である。ダーウン連合国家は昔からカインズ王国と同盟を結んでいる国である。
いくつもの小国が集まって出来た連合国家で、一年ごとに連合国家の代表は変わっていくシステムだ。定例会が定期的に行われ、それで連合国家の方針が決められていく方針である。
元々ダーウン連合国家は、小国同士がいがみ合っていた。それが大国と対抗するために連合国家としてまとまったのが、ダーウン連合国家である。小国のそれぞれの国で個性の異なるのも特徴的である。
時折、書状が届き、交流をする。そんな友好国家。そこからの手紙をシードル・カインズは読み進めていく。
そして、読み進めていくにつれてシードルの表情が変わっていく。
普段は冷静なシードルが手紙一つでこれだけ表情を変えるのは珍しかった。
「陛下、どうなさいましたか」
「これを見ろ、ウーラン」
シードルはそういいながら、書状をウーランの方へと見せてくる。その手紙に書かれた文章を、ウーランも読んでいく。
そしてウーランもその手紙を読んで眉を潜める。
「……縁談の、申込みですか」
「ああ」
「……しかも、ナディア様に?」
「ああ」
「断るんですよね? ヴァンがいますから」
「もちろん、そのつもりだ。ダーウン連合国家の公子よりも、現状ヴァンの方が価値がある。あれを国外に出すのは危険だ。国に取り込んでしまった方が断然良い。それにナディアも……不本意だが、ヴァンを好いているから。もちろん、ナディアが公子の方を気に入るならともかく……」
そう、ダーウン連合国の元小国である一つの領土の代表者である公爵の息子が、ナディアの噂を聞いての縁談の申し込み、それが書状にかかれていた内容だった。
それに対してシードルとウーランは即座にその話を却下し、お断りの書状を書きため、送り返した。
「ナディアとヴァンの事を早めに婚約にでもしたほうがいいのかもしれない」
「いいんじゃないですか? とはいえ、報告を聞いている限りヴァンは婚約とかそういうことは考えてなさそうですが」
「ナディアの事、思っているようなのにそういう事は考えてないというのはどういうことなのだろうか」
「元々平民ですからね。変なところで平民としての考え方が根付いているようですから平民の身で王族とそういう仲になるなどと考えてないのではないでしょうか」
そんな会話をしながらも、ナディアとヴァンの婚約を正式に進めるべきかもしれないと二人は考えるのだった。
連合国家からの縁談の申し込み——返事を返したことでその件は解決したつもりになっているシードルとウーランであったが、そのしばらく後にまたダーウン連合国家より書状が届くのだった。
―――舞い込んできた話について
(ダーウン連合国家から第三王女への縁談話が舞い込んできたのであった)
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