145.別れについて
『雷鳴の騎士』ルクシオウス・ミッドアイスラは、シザス帝国の一件のことをうけてカインズ王国に訪問した。その一番の目的であるシザス帝国の件についての話はもう終わっている。最初に決めていた滞在期間はもう迫っていた。
その間で、『火炎の魔法師』と『雷鳴の騎士』の弟子同士の模擬戦があったり、ザウドックが第一王女であるフェール・カインズに告白をしたりと色々な出来事があった。ザウドックはフェールから、答えを聞いたあとも、笑顔でフェールに話しかけていった。
国王と王太子が眉をしかめてその様子を見つめているのも目撃されている。第二王子であるライナス・カインズがそれを引きずっていく様子も見られている。第二王子は、親バカとシスコンに挟まれて大変なのであった。
「フェール様、俺!」
「フェール様、フェール様!」
フェールに一生懸命話しかけているザウドックのことをフェールは少しだけ嬉しそうに受け入れていた。その横で、キリマは、ニヤニヤしていて、その向かいではヴァンとナディアがのんびりしていた。
「ナディア、これ美味しい」
「ええ、美味しいわね」
ヴァンは相変わらずフェールとザウドックの様子に関心がないようだ。ナディアはフェールたちに視線を向けて気にした様子を見せている。
そんな感じの三人の王女と、英雄の弟子である二人。その光景が最近の日常である。
そんな日常も終わりの時が訪れていた。
「ええええ!? もう行くのかよ、ルクシオウス!!」
「いや、前々からいっていただろうが」
ザウドック、フェールに話しかける日常をよっぽど気に入っていたようで、ルクシオウスが最初からいっていた帰るといっていた日を忘れていたらしい。驚愕しているザウドックに、ルクシオウスは呆れた声をかける。
「それとも、お前、ここに残るか?」
「それは……」
「あの第一王女と約束したんだろ? 第一王女を娶れるぐらいがんばったらって。今離れてもお前次第ではずっと一緒にいられるんだからな」
「うん……。俺、ルクシオウスと一緒に戻るよ。俺は『雷鳴の騎士』の弟子であること、誇りに思っているし。『雷鳴の騎士』の弟子として名を挙げる。そしてフェール様に……もう一回いう!!」
ザウドックは、そういった。
『雷鳴の騎士』ルクシオウス・ミッドアイスラへの尊敬の気持ちがあるから。そして『雷鳴の騎士』の弟子として名を挙げて、もう一度フェール・カインズに告白をすることを誓うのである。
そんな会話を交わしていた二日後、ルクシオウスとザウドックは、トゥルイヤ王国に帰国することになる。
「フェール様、俺、絶対、有名になりますから!!」
ザウドックは、フェールに向かって決意を持って口にしていた。
フェールへの好意を一切隠そうとしない様子である。
「……ええ、楽しみにしているわ」
フェールは、周りに人がいることに少しだけ恥ずかしそうにしながらも、そう告げた。
楽しみにしているというのは、フェールの本心である。
(……人からの、好意。嬉しいもの。本当に、ザウドックが、心が変わりもせずに私を望んでくれたなら——。ううん、駄目だわ、人の心何て移り変わるものだというのに、期待していたらもし、駄目だった時に落ち込んでしまうもの)
フェールは、期待して駄目だったら落ち込んでしまうと自重の気持ちを持っていたが、顔はどこか嬉しそうに緩んでいる。
「ザウドックが本当に第一王女と縁つなぎになったら面白いな」
「まぁ、それはそうだな」
「第一王女がザウドック、第三王女がヴァン……となると、第二王女はお前がもらうべきじゃね? そっちの方が面白いだろ」
ルクシオウスがディグに向かってそういえば、キリマが身を乗り出していう。
「そうですわ!! 流石、ルクシオウス様、いい事言いますわね! ディグ様、私を是非もらってください!!」
「却下。ルクシオウスも馬鹿なこというな」
キリマの言葉に、ディグは間もおかずにそういった。一切、付け入る隙のない態度だが、キリマはそれでも気落ちした様子はない。
「ザウドック様がいなくなると寂しくなりますね」
「ナディア、ザウドックのこと、気に入っているの?」
横ではふとナディアが口にした言葉に対して、ヴァンが不機嫌そうに言う。
「だってヴァンにとっても仲良しなお友達でしょう?」
「お友達……? いや、まぁ、そうといえばそういえるのかな」
「ええ。だって同じ英雄の弟子だから対等なお友達でしょう?」
ナディアがにこにこと言えば、ヴァンはそれもそうかもなどと思いながら頷いた。さて、そんなナディアとヴァンの元へフェールと話が終わったザウドックがやってくる。
「ヴァン、フロノス!!」
ヴァンとフロノスに、ザウドックは声をかける。
そして、
「次はまけないから!!」
そう、告げるのだった。
ヴァンはそれに対して特に興味なさそうに「うん」とこたえるだけだったが、フロノスは「ええ」と負けないように気を引き締めなければと答えるのだった。
そして、その日、『雷鳴の騎士』とその弟子は国へと戻って行った。
――――別れについて
(『雷鳴の騎士』とその弟子は、そしてカインズ王国から帰っていった)
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